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「白い竜」の歌詞について

映画『千と千尋の神隠し』には、オリジナルサウンドトラックとは別に、イメージアルバムがあるのをご存知でしょうか。

映画の中で聴いたことのあるメロディーなんですが、それに歌詞がついていて、とても新鮮です。

今日の記事では、イメージアルバム収録曲の中でも特に気に入っている「白い竜」について思うことを書きます。

※この記事の見出し画像は、スタジオジブリが提供(公開)してくださった場面写真のひとつです。

「白い竜」の概要

割とよく知られているであろう「千尋のワルツ」のひとつ前、9番目の曲として収録されています。
この曲の歌詞は、白い竜に女性ヴォーカルが語りかける形式で書かれています。作詞したのは、宮崎駿さんです。作曲したのは久石譲さん。ヴォーカルはRIKKIさんです。
川のせせらぎや、竜の鱗のきらめき、風とか空とか、色々なものを想像させてくれる美しいメロディーが特徴的です。

言うまでもないかもしれませんが、この「白い竜」とは、映画に登場する美少年・ハクのことです。

歌詞解釈(仮定)

私がこの度あらためてこの曲を聴いて印象に残ったのは、歌詞です。
「千の夜を飲み 千尋の澪に鎮め」という歌詞が、個人的には最も印象的です。

「千の夜を飲み 千尋の澪に鎮め」
この歌詞を私なりにとりあえず解釈するとすれば、
「たくさんの試練を乗り越え、運命を受け入れて、しかるべき場所で心を鎮めなさい」という感じでしょうか。

「千」は「たくさん」という意味として捉えました。「夜」は「試練」として捉えてみました。また、「飲み」という表現から、困難をはね返すだけでなく「受け入れる」という意味合いを感じたため「運命を受け入れて」という言葉をあてました。

歌詞考察 その1

もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

映画の主人公・千尋は、湯婆婆(ゆばーば)に名前を奪われて「千(せん)」という名前になりました。両親は魔法によって豚にされ、正体不明の生命体(油屋の従業員たち)や八百万の神々に囲まれて働いた日々、つまり「千」として過ごした日々は、千尋にとって大きな試練であったと言えます。

「千の夜を飲み」という歌詞にある「千」は「たくさんの」という意味に加え、油屋で働いていた人間の少女、千を意味しているのかもしれません。
「千の夜を飲み」とは「千に課せられた苦難から彼女を守りなさい」という意味だと捉えることができそうです。

「飲み」という言葉を使っているのが、私にとって見逃せないポイントです。「飲む」というのはつまり、異物を自分の体の中に取り込むということ。「安全なところに立ったままで千を助け出せ」ではなく「自分の命を投げうって千を守れ」という意味が込められていると思います。「大切な人のためにリスクを冒せ」という意味が強調されていると感じます。

歌詞考察 その2

次に「千尋の澪に鎮め」という部分。

千尋(ちひろ)とは映画の主人公である少女の名前ですが、goo国語辞書によると以下の意味があるようです。

尋の千倍。転じて、非常に長いこと。また、きわめて深いこと。

また、澪(みお)がどのような意味なのかも確認してみました。こちらもgoo国語辞書からの引用です。

1 浅い湖や遠浅の海岸の水底に、水の流れによってできる溝。河川の流れ込む所にできやすく、小型船が航行できる水路となる。また、港口などで海底を掘って船を通りやすくした水路。
2 船の通ったあとにできる跡。航跡。「遊覧船が―をひいてゆく」

「千尋の澪」という歌詞は「水の流れによってできる、非常に長く深い溝」という意味だと考えることができます。
ハクが川の神様であったことを考えると、澪(水の流れによってできる溝)は「本来の居場所(しかるべき場所)」という意味合いを含んでいる表現だと言えそうです。

ちなみに「鎮む」の意味も調べてみました(goo国語辞書にて「鎮める」で検索したので、それを引用します)。

1 物音や声を小さくさせる。静かにさせる。「場内を―・める」「鳴りを―・める」
2 勢いをそぐ。「火事を―・める」「波を―・める」
3 騒動や混乱をおさめる。「暴動を―・める」
4 からだの痛み・症状や気持ちの乱れなどを落ち着かせる。「せきを―・める薬」
5 神霊を安置する。鎮座させる。また、霊魂などを落ち着かせる。「神を―・める社」「御霊 (みたま) を―・める」
6 寝しずまらせる。「夜深きほどに人を―・めて出で入りなどし給へば」〈源・夕顔〉
[補説]3・4・5は多く「鎮める」と書く。

6つも意味があるんですね。何となくの意味は知っていたつもりですが、6つもあるとは。

ハクは川の神様でしたが、その川は埋め立てられてしまいましたよね。それが原因で、彼は油屋に来て湯婆婆の弟子となったのです。
元居た場所を追われて、傷つきさまよっている川の神様に対して「千尋の澪に鎮め」と歌っているのなら、ここでいう「鎮め」は、4や5の意味と考えるのが適切ではないでしょうか。

「千尋の澪に鎮め」とは「長く深い澪(しかるべき場所)で、傷ついた心と体を休ませなさい」という意味だと考えられます。

歌詞考察 その3

「千尋の澪に鎮め」を分解して考えていくことで、何となくの意味を捉えることはできたと思いますが、もう少しロマンチックに考えたいところです。

私としては、この「千尋の澪」は、「千尋の愛」という言葉に置きかえられるのではないかと思います。

この歌詞における「千尋」は「非常に長く、きわめて深い」という辞書的な意味と、映画の主人公の名前、ふたつの意味を携えて登場しているのです。
「千尋の澪(千尋の愛)」とは「異世界に迷い込んだ人間の少女、千尋が抱いているハクに対する愛」であり、その愛は千尋(非常に長くきわめて深い)、すなわち永遠の愛なのです。

私の言いたいことが伝わるでしょうか。

「千尋の澪に鎮め」とは、「あなたの大切な人である千尋の、永遠の愛に身を委ねなさい」ということです。

結論

「千の夜を飲み 千尋の澪に鎮め」とは、つまり

「自身の運命を受け入れ、千に課せられた苦難を退けるために命を懸けなさい。そして、あなたの大切な人である千尋の永遠の愛の中で安らかに生きなさい。」

ということなのだと思います。

「千の夜を飲み 千尋の澪に鎮め」。
ハクを諭して励ましているような、素敵な歌詞ですよね。すべてを投げうった先にあなたの居場所があるのだ、愛があるのだというメッセージが込められているのではないでしょうか。

この映画の非常に重要なメッセージが短い歌詞に凝縮されていて、本当にすごいと思います。

「白い竜」に興味が湧いた方は、ぜひ聴いてみてください。


今日は以上です。
お読みくださり、ありがとうございました。