9年のベトナム生活で変わった法人観

世界各国の物書きでまわすリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。走りはじめてから1年3ヶ月が経ち、なんだかんだで7周目に入りました。今回のテーマは「最近始めたこと」。ハッシュタグは #日本にいないエッセイストクラブ 、ぜひメンバー以外の方もお気軽にご参加を~。

過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください。


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おー、最近始めたこと。

うぅむ、そうだな、もう言ってもよい気はするので。始めたっていうか、これから始めるという方が正しいのだろうけど。

沖永良部島で法人をつくることにしました。7月頃かもしれない。名前は…まだ出し惜しむ。なんでそんなこと(ベトナムでブロガーやってた人間が島で法人をつくる)になってるのかについて、今日は書いてみようかな。

たぶん、だーいぶまじめな内容になると思います。

私の行動原理はベトナム生活がベース(だと思う)

まず大前提として、今の私の行動原理っちゅうか、物事の考え方・決め方の大半は、ベトナムで外国人として暮らした8年間がベースになっています。これがあって私は、文章を書くとか、ふざけた企画をするとか、楽しいことでメシが食えるようになったので、んもうベトナムだ~いすき!な訳です。

そしてまた、外国人というマイノリティとして過ごしたことで、「知らないものを知るっておもしろいんだな」とか、「どんなに自分と違ってもそうなるに足る理由があるんだな」とか、ベトナムに行く前の自分とくらべてかんなり思考は柔軟になったと思う。ブロガーやライターとして、「企画を立てて・実行して・記事を書く」という作業プロセスとの相性もよかったです。水辺(ベトナム)にスポンジ(執筆業)を持ち回ったような8年間でした。

「法人」に対する最初の意識

法人(会社)は9年前、ベトナムに移住して半年後から「つくりたい」と考えていました。

ただその動機は今とまったく違って、ただ、「周りの経営者の知人友人がかっこよく見えた」ということと、「法人を立てた方がビザの都合上ベトナムにいやすい(と思った)」ということ。言ってみれば、下心満載だった訳です。それではじめられるのも才能だし、設立後に学ぶことはたくさんあると思うんですが、そこで踏み出せるだけの度胸が私にはありませんでした。

それが一年半前、言い換えるなら「法人をつくりたい」と思うようになってから7年半後、大きめの案件というか、それまで持っていたアイデンティティを失う機会がありまして(今になって思えば他人が生殺与奪な受託案件をアイデンティティとして捉えるってしょうもないと思ってますけど)、そんなときに会ったある方から法人設立を勧められたのでした。責任を持った方ががんばるタイプだから、とのことでした。今は自分でもそう思います。

法人を立てて続けるということは、稼ぎつづけるということだと思います。それまであまり自分は金に欲がなく、楽しいことで食えているだけで人生丸儲け!くらいに捉えていたのですが、そのときにはじめて「稼ぐ手段」について真剣に考えました。そこで出た結論は、「広く、あるいは深く社会に価値を生むこと」「お金をいただきやすい仕組みをつくること」「自分のモチベーションがすべての源泉だからやりたいことをやる」ということでした。

「本気で怒れる課題」を法人の至上命題に

さぁ、それでは何をしよう。

法人設立を勧められた一ヶ月後、そんなことを考えながらまったく別の理由で母の出身地である沖永良部島(おきのえらぶじま)を訪れます。理由はシンプルに、ベトナムでの知り合いの知り合いが島に住んでいたから。その人が移住者だと聞いて、ルーツのある場所に住む人に興味が湧いたのです。

紹介された移住者の人たちとも話が盛り上がる中で、「沖永良部島にベトナム人技能実習生が100人近くいる」という話を聞かされ衝撃を受けます。もともと私はライターとして日本でベトナム人技能実習生が失踪や自殺をするという話を取材しており、解決を望むもののライターとして記事を書く以上のことはしない、そんな自分に心のどこかで引っかかりを感じていました。

自分が好きなベトナムから来た人たちを、そんな窮地に追い込んでいる社会の状況が許せなかった(実際はより複雑でしたが)。しかし、そんな、自分が本気になって怒れる課題こそが、法人を立ててでも解決するべきものではないか。そこに価値があるのではないか。そう思ったときに初めて、自分がイメージしていた法人という身体に、使命という魂が宿った気がしました。

では、どうやって解決する?このへんは、曲がりなりにもネットでいろんな企画を立ててきた人間なので、考えること自体は苦ではありませんでした。そのひとつがベトナム人技能実習生と日本人のコミュニケーションをサポートする「GINO-T(ギノティ)」というツールであり、クラウドファンディングを経て、現在は、100種類以上のイラストを用いたTシャツを準備中です。

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こちらが試作品。

ただ、これってべつに個人事業主でもできるんですよね。実際に個人事業主として「GINO-T」をつくってきている訳で。

そこでわざわざ法人という新たな人格を生み出してまでやる理由は何なのかなーと思ったときに、やはり同じメッセージでも、個人が言うのと法人が言うのじゃインパクトが違うな。ということでした。あとはシンプルに、行政や法人と取引がしやすいし(前者は非営利組織の方がよりそうでしょうけれど)、金融機関からの借り入れもしやすい。もっと言えば、この技能実習生の問題だけでなく、そもそもその法人は社会の何を解決したいのか、どんな価値を生み出したいのか。そこに答えが出たことも決断につながりました。

その中には、「ベトナムでの外国人体験」が深く関わっており、今後日本は(というか世界の先進国を中心に)いろんな国籍の人たちが共生する世界になっていくのだから、日本にもその土壌を今のうちにゆっくりとつくっておきましょうね~みたいなこともあったりする。

なおこれは独り言みたいなもんですが。法人形態は株式会社でなく合同会社を選ぶと思います。最初は少しでもコストを下げておきたいのと、あとから切り替えられるみたいなので来る日が来たら。認知度が低いから信用が低いとも聞くんですけど、競合が少ないことをやるので大丈夫だろうと思っていますが、「待った」という人がいれば詳しく聞きたいので教えてください。

そして最近始めたことは事業計画書の準備

前置き(!)が長くなりましたが、ここからちゃんとした最近始めたこと。

最近は、事業計画書を書いています。

県が実施する起業支援制度に応募するために、経費やら、売上予測やら、ビジネススキームの図式なんやらも準備して。それに近しいことは一年前にすでに小規模事業者持続化補助金という制度のために準備していたんですが、やっているうちに自分のイメージの解像度が高まってきて、「あぁ、自分は本当にやるんだな」という自己暗示をかけているみたいで心地が良いです。

申請するメインの事業はGINO-T…ではなく、解決する課題こそ同じだけど、アプローチはまったく異なるもの。むしろそっちの方がかなりビジネスっぽいというか、GINO-Tにできないことを模索したところ着地したという感じ。

うまくいくかどうかは分からない。
まぁ、でも、あらゆる面での価値を勘定に入れて、損はしないだろう。

経営者でもありたいしクリエイターでもありたい

今までは自分が楽しければいいやという思いだけでやってきたんですが、そうやって知らず知らずのうちに積み重なってきた力が、人の役に立てるっていうのがものすごくうれしいんですよね。水を得た魚って表現がありますが、今はほんとそんな感じ。経験、スキル、つながり、あらゆるものを総動員して、社会にまだない価値を生む、その主体がこれからつくる法人なんだと。あぁ、自分の集大成はここからつくっていくんだなーと感じています。

ただ、ライターというか、企画することも書くことも、ずっと続けていきたい。これはただ楽しいからではなく、きっと法人としての事業との相乗効果も生まれると思う。そもそも、自分はライターをやっていたから、今考えている性格の法人を立てようとしている訳で。あ、でも、やっぱり違うかな。なんだかんだで、一番はただ楽しいからですね。


ちなみになぜ「沖永良部島で」なのかについては、また語る機会があれば。


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前回走者、すずきけいさんの記事はこちら。

娘さんが大きくなって、家が手狭になってきたという話。

>娘ははじめてできた自分のスペースに大喜びで、朝ごはんまでそこで食べ始めた。

分かるわぁ…。

自分は気に入った服を頻繁に着てしまうんだけど、根っこは似ている気がするね。おしゃれのために、着心地のわるさとか、暑いとか寒いとかちょっと我慢する。ましてやそれが「自分だけの空間」っていうのはデカイだろう。

ちなみにしれっと出てくる「イタリアの賃貸は4年毎に更新」「大家より借主の方が立場が強い」という情報が超新鮮。そりゃ4年も経ったら(物価上昇率にもよるけど)家賃も値上げしてくるのかなーとか、ベトナムは完全に大家の方が強いよなーとか、おもしろかった。一部ネタバレ?すみません!

次回の走者は…
その夫婦愛でなんでも溶かす!ネウケンの情熱の溶鉱炉こと奥川駿平さん!

これタイトルいいよね、読みたくなるよね。

奥川さんの作風を知ってるから、「あー友人が行ったんだな」と思うけど、読む人が読んだら、「ピューマを狩りに行った日本人!?」と思うのかな。でもそっちの方が俄然気になるわ。いねぇかな、ピューマ狩りのハポネス。

もちろん内容も、「チャンパーワットの人食いトラ」ばりの緊張感が走りまくっているので御覧あれ!(「チャンパー~」とは、ギネス世界記録にも登録されている単独の猛獣による死者数としては世界最悪の獣害事件です)

ぜんぶうまい棒につぎこみます