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空と地面の狭間で

スカイ・クロラ シリーズについて書いていこうと思います。
一回の投稿では書ききれないと思うので何度かに分けて書こうと思います。

 著者の森博嗣さんは「このシリーズが書けたら執筆活動を止めてもいい」とさえ言っていたくらいの作品なので、著者が当時最も書きたかったものだったのがこの作品だと思います。
 模型作りが「趣味」でその費用を捻出する為に始めた執筆活動ではありますが、そういった実用的な意義だけではなく、小説は著者にとっての創作活動という意義もあった事がうかがえます。(それが一般的なのでしょうけど)売れる作品を書く事と、書きたい作品を出版する事は別のことでしょう。勿論書きたい作品を書いて、それが売れるという事もあるとは思います。
ただ、売れるかどうかは様々な要因が重なって起きる事ですし、的確で高確率な予測などが出来ない限り、売れる作品を書くというのは難しく、そしてその活動は複雑になっていきます。

 とは言え、一定の法則や市場調査、過去の事例などの基準をクリアすれば「売れる」かも?という事でプロジェクトが動き出します。要は出版社がGOサインを出せばいいわけです。
そして実際に売れれば、作家としての評価が加わり、出版に際してのハードルは段々と下がっていくであろう事は予想できます。

5部作を予定していたシリーズが試しに1作だけとなった話は前回の投稿で書きました。
という事は出版社も懐疑的だったという事ですね。
その時点で著者にとっての執筆活動が、「趣味の模型」の為であれば
「そうですか、じゃ別のを書きます」となっていたでしょう。
でも、「書きたかった」わけです。純粋に小説という創作活動の為に「書きたかった」ということですね。
ま、私は所詮ただの一読者なので、詳しい経緯は知りませんけど。

「このシリーズが書けたら執筆活動を止めてもいい」

という話から、創作としての小説への著者の意欲が伺えるわけです。
そして、趣味の模型の為の費用を捻出する為だけではなくなっていったということですね。

これは森博嗣が二人いるに等しいです。

模型を作りたい森博嗣
小説を書きたい森博嗣

前者は収入を得る為の小説、後者は創作をする為の小説

大学の職員として研究に没頭していく結果、周囲に認められ地位が高まっていく。教授になれば雑務が増えて研究をする時間が減る。
研究はそれを支える予算が必要なので、予算を捻出する役割が求められ、それが地位の高い人の任務になっていく。

大学の事は良く知りません。
森博嗣さんの著作から通して国立大学というものを見ると、上に書いたような構造が見えてきます。研究をすればするほど研究ができない立場になっていく。
このあたりの研究者の矛盾はS&Mシリーズでも書かれています。

※ 因みに「すべてがFになる」の犀川創平は国立大学の助教授です。執筆当時の著者の肩書と同じという事になりますね。


そして、往々にして社会はどの分野でも似た構図をしていると思います。
自分のやりたい事をやろうとすると、周囲の理解が必要になり、その為には周囲に取り繕い、自分を騙し、その結果やっとの事で、やりたい事ができるようになる。
だが、いざそうなってみると、本当にやりたかった事とはかけ離れているという事に気付く。
人は多かれ少なかれ、このバランスの中で活動していると思います。
このシリーズの根底にはこういった社会構造へのジレンマやそこでの苦悩があると私は解釈しています。

人は複数の仮面を被り、複数の人格を演じ、本当の自分を見失う

 森作品には多重人格が描かれます。天才や優秀な頭脳を持ったキャラクタほど、そのような多重性を持った存在として描かれるという傾向があるという事も付記しておきます。
そして全てではありませんが、そういったキャラクタを主人公にはぜずに、主人公からの客観で描かれる場合が多いと記憶しています。
ところがこのシリーズは、それをモロに主観で描いているので、そういった意味で他のシリーズとは一線を画すシリーズと言えるでしょう。
※このシリーズでは優秀な戦闘機パイロットが主人公です。

 苦悩する主人公の視点で描かれるシリーズ、というと何だか暗い陰鬱な印象になってしまいますが、この作品のレビューを見ていると、爽快感や清涼感のようなものを抱く読者が多いです。
私もこの作品からは清涼感や静謐な印象を抱きます。
そう、それが 空 というものだから。

空(ソラ)ですね。
スカイ・クロラ なので空を這う者(達)
空を泳ぐもの達

空というキーワードがシンボリックに出てきます。

自由
綺麗
澄み切った

対象的に地面は

障害物
汚れた
ジメジメした

スカイ・クロラシリーズの事、なんとなくイメージができてきたでしょうか。

まだまだこんなものではありません。
この作品は語りだすと止まらないです。

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