旅ときのう/24カ国め/デンマーク01/世界一細長い冷蔵庫


一番最初にこの国を訪れたのは、陶器をつくる友人がレジデンシーをしている田舎の工房を訪ねていったときだ。その工房のまわりは森でかこわれていて、小さな池がいくつかあったようなきがする。池といってもサイズはおおきめのみずたまりくらいだ。

工房の共同キッチンにはものすごく背の高くて細長い冷蔵庫があったきがする。

いままでいった国のどの場所でみたどの冷蔵庫よりも、幅がせまくて縦に高い大変珍しい冷蔵庫だったきがする。

今考えると不思議だ。背の高いヨーロッパの天井に合わせたような高さのその冷蔵庫だけれど、一番上の段の食べ物をとるときははしごでも使うのだろうか。背の高い彼らでも届かないような高さであったように思うのだ。それとも記憶よりも現実はもう少し低かったのだろうか。

冷蔵庫のちかくにはノートの切れ端のようなメモがはってあって、日付がたてに書かれている。

日付ののよこには、その日の食事をつくる人の名前がよれよれした文字で書かれている。

そのよこにはその日に食べる予定の人の名前も書かれている。

「30クローネくらいで分担して、順番に夕食をつくってみんなでたべるんだよ。」と友人が言う。

「色々な国の人がいるから、色々な料理があっておもしろい」とつづける。

私もその工房の食卓に参加したきがするのだが、はっきりと覚えていない。

森をぬけて少しあるくと小さな店が点々とある、村のような場所にたどりつく。低い建物ばかりがつづいて、通る人は、私を珍しそうにふりかえる。

宿泊した宿は宿でありながらも誰かの家のようで、私の部屋は3階か2階、とにかくその建物の階段をあがった最上階だった。小さい部屋だけれど清潔にととのっている。白いシーツがピンとはられていて、使われている家具は古いのによく手入れされていて痛みが全くないつやつやとしたあかるい栗色で、シンプルだけれども美しい。飾りはほとんどないのに、個性がある。

大抵のホテルにある家具というのは味気ないものだ。

それが超高級ホテルであっても安いビジネスホテルであっても、だ。見た事のあるような色と形と素材。誰もが心地よく感じる可も無く不可もない平均点の延長。

その小さな家のような宿の部屋にある家具は、そのすべてがとてもセンスがよくて静かで素敵だった。

もしも一般的なホテルインテリアの家具が存在する地点を村Aとして、その静かな家具が存在する地点を、村Bとするならば、その距離は永遠に近づく事がないし、お互いを知ることは永遠にないだろう。

村と村の間には霧がかかっている。村Aと村Bは別な言語を使用している。仮に出会う事があっても会話をする事は難しい。霧が晴れてもそこには小高い山があって、彼らはお互いの村の存在自体を知らないのだ。

そんな距離だ。

もうひとつ覚えているのは工房のキッチンにあった明るい黄色の棚だ。

三角のような変わった形で、とても目立っていたけれで不思議とその地味な空間にあっていた。

誰かがつくった特別なものなのかな、とおもっていたのだが、あとから同じものを偶然イケアかタイガーで発見して、ちょっと笑ってしまった。

ものというのは不思議だ。結局使う人や場所で、見え方も価値もスライムのように自在に変化してしまう。

別に大量生産の安いものでも、高級デザイナー製品でも、母親の手作りでも、思い出の形見の品でも、どれが一番素晴らしいなんていう正解なんてどこにもないのだとおもう。



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