旅ときのう / 26カ国め /ドバイ/早朝のモスクの床で一人寝転がって砂糖菓子のような天井を眺める

朝の6時半だか7時に、私はひとりでモスクの中の床に寝転がって、カラフルな天井を見上げていた。パステル調のその色は、淡いピンクやマヨネーズのようなやわらかい黄色、イースターのお菓子を砂糖のコーティングを連想させる水色。

モスクの中には完全に私一人だった。

だれもいないモスクで、少し不安になりながらも、少しわくわくしながら、遠慮がちに建築を内側から眺める。

その日の予定は、友人が割と念入りに計画をたててくれた。ちなみに計画をたててくれた友人は一緒に旅行したわけではない。わたしのきままな思いつきの一人旅のために、ドバイ出身の友人がわざわざ親切にも細かな計画やリストをつくってくれたのだ。

本来私は世界最大級のモスク「シェイクザイードグランドモスク」に行こうと夢見ていた。
そのモスクはドバイから車で数時間のアブダビにある。

1週間前くらいのことだろうか。ドバイで育った友人(現在はアメリカで働いている)にその計画を話すと、日帰りでアブダビへ行くには、時間がタイトすぎる。と速攻で却下されてしまった。もともとモスクに行く為に1日ドバイへ立ち寄る事を決めたのだ。かなりショックを受けた私の様子をみて、友人が教えてくれたドバイ市内のモスクがこのジュメイラモスクだ。

彼女は現地にいる友人に連絡をとり、その友人が車で市内案内までしてくれるという凄く親切なオファーまでとりつけてくれた。最終的には友人は仕事の為、案内計画はなくなったものの、友人達は、私の1日ドバイ観光の大まかなルートや私の好きそうな場所、街の巡り方、食事をどこでいつとるかなど、かなり親切で細密な計画をたてて、予定表をつくってくれた。

ところがだ。

モスクへつくと、「本日は休館」の看板。友人達は、休館日までは把握していなかった。とほうにくれて湿気っぽくて暑い空気の中、呆然とする。とりあえず窓から中でものぞいたり、外観だけでも楽しもうと、建物の外側をぐるっと一周することにした。裏手に回ると、木の彫刻を施されたごつい扉があって、少しあいている。

いや、もしかして閉まっていたけれど、押したら開いたのかもしれない。
とりあえずも中にはいってみる。
女子トイレのドアが左にあって、その奥に、靴を脱ぐ場所がある。

少し不安ながらも、靴を脱いで中にはいってみることにした。
すすんでいくと、そこは広い空間で高い天井の中央にはモスク特有のまるい屋根の形がみえる。部屋の端にはコーランが並んでおり、外からの明るい日差しがあって、中は静かながらも明るい空気に満ちていた。
最初はドキドキしたものの、中に誰もいないとわかると落ち着いてきて、天井を撮影したり、床に倒れて少し瞑想してみたりする。

これが通常の開館日なら、大勢の人がいて、もうすこしにぎやかなのかもしれない。贅沢な事に、この広い場所で、私はたったひとりでこの空間をたのしんでいた。

ずーっと前に、どこかの美術館で、巨大なモネの絵を見ていた事がある。
あのときも、本来は激混み空間の展示会場が閉館直前か、開館直後のどちらかの理由で、私と部屋と絵(とたぶん警備員)しかいなかった。
ああいう瞬間、とても贅沢な感じがするものだ。
今回も、この特別な空間に一人で静かに過ごせるというシチュエーションにちょっと興奮しつつ、建物を内側から眺める。
自然光が入ってくる窓を内側からみるのは楽しい。

あとで母に話すと、そんなよく知らない街で危ない事や変な行動はしないで!とおこっていたが、私はたまにそういうところがある。
私のとても親しい友人達の何人かも、そういうところがある。

しばらく一人で過ごした後、心の中でお礼を言って、そっと靴を履いて、モスクをあとにした。
休館日を勘違いするのも、たまにはいいものだ。

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