見出し画像

電子は水底へ 6

オリジナルの長編SF小説です。

~あらすじ~
近未来の世界で庭師として生きるアンドロイドが、ある日、巨大で奇妙な白い繭を見つけ、大事件に巻き込まれていく。逃亡中に重大な秘密を知り、苦悩からヒトを開放する手段を見つけるため、旅に出るが……

※週に1~2回ほどの頻度で更新いたします。
※少し残酷な描写がございます。苦手な方や、18歳以下の方の閲覧は推奨しません。
※14~17回ほどで完結する予定です。

電子は水底へ 1 】【電子は水底へ 5 】⇔【電子は水底へ 7 



爛熟らんじゅく


池の水面が淡い日差しを反射している。青々とした睡蓮の葉が、池の中心に向かって茂っていた。ほとんどの蕾が、多すぎる葉に埋もれかけている。このままでは、花が上手く咲かないだろう。

池の中に進み入り、痛んだ葉や重なっている葉を摘み取っていく。しかし、この池はこんなに深かっただろうか。中央に向かって深さが増していく。顎下にまで迫りそうな水が邪魔をして、腕を動かせなくなった。

池から上がろうとした時、嵐のような風が吹いた。瞬く間に葉は吹き飛び、いくつかの睡蓮の蕾のみが残った。水に濡れた顔を手でぬぐい、つま先で池の底を蹴って花の傍まで行く。蕾は淡く発光しているようだ。

不思議な睡蓮の蕾を眺めていると、周囲が急に暗くなる。上空には星空が広がっていた。そして、頭上の満月が凄まじい速さで迫ってきていた。異様な大きさの月が、もう私のすぐ近くまで降ってきている。

息を呑んで後退すると、池の底が無くなった。ばたばたと足を動かしても、地面に足がつかない。

水の抵抗さえも感じなくなり、恐怖が増していく。近づいてくる満月の荒々しい黄金色。奇妙な浮遊感。

ここから先は

2,705字
この記事のみ ¥ 100

お気に入りいただけましたら、よろしくお願いいたします。作品で還元できるように精進いたします。