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千歳飴歌う金平糖洗い

昔々、金平糖が大好物という、風変りな妖怪がおりました。

青白く光る、薄い絹のような羽根を持つ小人の妖怪です。その妖怪は、独りでぐっすりと眠る人間の傍に現れ、金平糖をさらさらと流す音を耳元で発して、良い夢を見せてくれます。

まだ多くの人々が妖怪を目に映していた頃、その神出鬼没な妖怪は、月の蝶々とも、金平糖洗いとも呼ばれていました。

途方もない大昔に、空から落ちてきた金平糖に惚れ込んだというその妖怪は、その金平糖を何とか自分たちで作れないだろうかと思案したそうな。しかし、その妖怪が暮らす場所は、豊かな森と宇宙の間の空。周りにあるのは、雲や雷くらい。

しかし、どうしても諦めきれなかったその妖怪は、金平糖を作ろうと決意したのです。そして、原料になりそうなものを、賢い人間から拝借しようと思い至りました。

その原料になりそうなものとは、悲しいという感情の底に溜まる、沈殿物だそうで。

夜な夜な、独りで眠っている人間に近づいては、その原料を取り出して。急いで天空に戻り、金平糖をせっせと作る。出来上がった金平糖は、求めていた金平糖そのもので、妖怪たちは歓喜したそうな。

満足した妖怪たちは、原料を提供してくれる人間に感謝を伝えようとしました。眠る人間のそばで色々試したそうです。

そしてある晩、金平糖をお盆に乗せて傾けた時に鳴る音には、人間の夢見を良くする作用があると気付きました。

そして、その妖怪たちは金平糖の原料のお礼として、金平糖が流れる音の子守歌を歌うようになったのです。かくして、優雅な月の蝶々と呼ばれていた妖怪は、金平糖洗いとも呼ばれるようになったとさ。

や、長話になってしまいました。じじの話は、今日はこれでおしまい。もう夕方だ。子供たち、もうお帰りなさい。もっと聞きたい子は、明日また、このお寺においで。




掛け布団を握り締め、横向きに丸まって、今日も独りでぐっすり眠っている子供。つんつんと、手を少し突いて、起きないことを確認する。

よしよし。

自慢の、青白く薄い羽根をゆっくり動かして、眠る子供の顔の近くに降りる。目尻に涙の痕。よしよし。今夜はたくさん、金平糖の原料が貰えそうだ。

子供の枕元に移動して、さっそく羽根をひらひら動かした。子供の悲しい気持ちの底にある泥が、キラキラした粒子になって、僕の羽根に吸い込まれていく。粒子は子供の胸の辺りから、ふわふわと出てくる。

「うー……」

子供が小さく呻いて、動きを止めた。まずい。起きてしまうか。

「うー、……うう……う……ふぅう……ううう」

目尻の涙の痕を、また新しい涙が辿る。僕は羽根を動かすのを止めて、歌った。

サラサララシャラサラサラ……シャラシャラサラサララサ……

金平糖が流れ落ちていく音を繋げて作った子守歌で、だんだんと、子供の眉間の深い皺が消えていく。

この子供の悲しみの沈殿物から作った金平糖が、僕は一番好きだ。金平糖を食べると、原料になった悲しみの根っこがどんなものか、よく分かる。この子供の悲しみの根っこは、スライムのように柔らかい氷。何も燃やさない甘い炎。

あるいは、あべこべな優しさ。それを感じるのが、とても好きだ。

子供がにんまりと笑う。良い夢を見ているのだろう。よしよし。この人間には、特に長生きしてもらわなくては。羽根をゆったり動かし、悲しみの沈殿物の回収を再開する。

「君、末永く在れ。千代に八千代に。悲しみの淀みは、金平糖と千歳飴に変えてあげよ。悲しみよ軽くなれ、羽根の如く」

一昨日作った歌を、小声で披露する。穏やかな寝息と、調和するように。己の悲しみの根っこの正体を、この子供はまだ知らないだろう。悲しみが大切なものであることも。

「どうか、気付くまで捨てないでいて。千歳に、健やかに」

最後に祈ってから飛び立ち、暗闇に姿を溶け込ませた。



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