南天鉄塔
けたたましい振鈴の音は、目を開けると聞き慣れた素っ気ないアラーム音に変わった。重い腕を伸ばして音源を探る。
戻った静寂とひんやりとした風が心地よい。
風に踊らされるレースカーテンの隙間から、鼠色の空と鉄塔がちらちら見える。今日も頑として在る鉄塔。猛吹雪や雷に激しく打たれようが、空を割るようにまっすぐに、存在している。
清々する鉄塔の立ち姿に誘われて、のろのろとベッドから上体を起こす。さぁ、冷たい水でも飲もうと立ち上がった時、気付いた。私は窓を開けていない。
遥か遠くの鉄塔がぐにゃりと左に曲がった。先端が地面に刺さった。またあの鈴がうるさく鳴り始める。
耳を押さえて目蓋をきつく閉じる。大丈夫、大丈夫、大丈夫と9回ほど己に言い聞かせると、止んだ。
震えながら目を開ける。寒く、薄暗い。錆びた匂い。鉄の枝が重なる鉄塔の中だった。視界がぐるぐる揺れる。暗い万華鏡。勝手に口が動く。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫
シャンシャン、シャンシャン、シャンシャン
錫杖の音だった
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