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いざ、リフレクション

冷たいフローリングの上に、四肢を投げ出すように寝そべる。力が抜けた掌から、握っていたガラス製の亀がころりと落ちた。窓から吹き込む風と、カーテンの隙間から見える青空は今日も気持ち良い。


落ちたガラスの亀を掴み、目の前に掲げた。日光がランダムな方向から入るガラスは、私の記憶を掘り起こしてくれる。

理科の実験だ。水槽の水に沈めたガラスが、魔法のように消えてしまう実験。消える小さい東京タワーのガラスの置物に、夢中になった。

確か……エタノールと……ベンジンアルコール。この2つを絶妙な割合で混ぜると、ガラスと同じ屈折率の液体になるのだ。それで、液体に沈んだガラスは消える。消えたように、見える。


表情の無いガラスの亀。君もあの液体に沈めば、瞬きの間に消えるだろう。君の元の持ち主のように。急に失踪してしまった。仕事も家族も友達も、全て断ち切って。

1ヶ月前、共通の知人からその知らせを受けた瞬間に、もうあの人は帰ってこないと確信した。あの人はいつも笑ってたけど、本当は少しも笑ってなかった。この亀みたいに、無表情だったのだ。大体のことを、諦めて。

それでも、新天地を目指すチャンスを伺ってた。知っていたんだ私は。ずっとずっと前から。近しい関係にはなれなかったけれど。だから、あの人の門出が心から嬉しい。ついに、あの人は決心したのだ。

あの人がお土産としてくれたクリスタルの亀は、これからも私の部屋に飾っておくつもりだ。今、あの人は消えずに、笑っているだろうか。


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水月suigetu
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