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植物に聞いてみた ~メヒシバ 雑草の女王


語り その空き地は、メヒシバ以外、見当たらないくらいだった。手のひらを開いたように、細長い穂が広がるどこにでもある雑草。密集するだけでなく、メヒシバは、道路の隙間にも生えているし、ほかの植物と入り混じりながら、生えていることもある。私は周りに人がいないのを確かめてから、メヒシバに話しかけた。
 
メヒシバさん、お話を伺ってもいいですか?
 
メヒシバ あ、私なんかに、話しかけるの? 珍しい。
 
どこにでもいる存在は、みんな、風景として見てしまって、気をつけて見ないことってあるじゃないですか。
 
メヒシバ へー……大概の人は、しつこい雑草とかしか、言わないのに。
 
確かに、メヒシバさんたちは、やっかいではあります(笑)。庭だけでなくて、植木鉢にも、どこからともなく入ってくる。どうして、そんなに、増えられるんですか?
 
メヒシバ ふふふ……秘密! なーんてね。
私なんか、弱いよー。すぐ抜けるでしょ? 私よりずっと抜きにくい草は、いっぱいあるでしょ。
 
私に言わせれば、ほかの植物より、メヒシバさんの方が、手ごわいです。とにかく横に広がっていく。
 
メヒシバ ふふふ……種と接触で増えるからねー。
 
種はパラパラ始末悪い感じで落ちますね。だけど、接触って?
 
メヒシバ 茎を地面に沿って横に広げた時に、節(ふし)をたくさん作って、最初の本体以外にも、土と接触した節からも根づいて株にしていくの。
節は、敢えて弱くしてあって、人間が、抜こうとしても、ぷつぷつ、ぷつぷつ切れる……ふふふ……
誰が言ったんだったかなー?
「強くなりたかったら、水のように。水に敵う(かなう)者無し」って。
 
「脆さが、しぶとさに繋がることもある」と?
 
メヒシバ そうそう。
もともとの本体が抜かれても、あちこちの節からできた株から根を出して、それぞれが成長する。
株を取り尽くされたとしても、種という形で別の手も打っているの。
早く芽を出すタイプ、遅く芽を出すタイプ。様々な発芽のタイプの種を私たちは落とす。
発芽した第一波が、人間に取られても、時間差で発芽する第二波、第三波、芽生えてきて、私たちを取り尽くすのは、至難の業でしょうねー

……そういうタイプの強さというか、しぶとさともあるんですね……
私は、頭硬くて……そういうのがわからなかった。「強い」って、毒とか根が強力とか、そんなことばっかり思い浮かべてました。

メヒシバ あと、アレロパシーがあるって言われてるね。

アレロパシー?

メヒシバ ああ、横文字使ってごめんなさいね。ほかの生物に対する影響のこと。私たち、ほかの植物の成長を阻害する物質を出すって言われてる……

あ、キョウチクトウさんが、人間が安直な誤解していると言ってた奴か。

メヒシバ 私たちのアレロパシーは、全種類の植物に有害なわけではなくて、ある研究によると、ある植物は、一緒にいるとかえって良く成長して、別の植物は、成長を阻害されたっていうわね。でも、そういうのは、いろんな要素が絡むからねー。人間の世界だって、いろんな人がいる中で、共に成長できるのか、相性悪くて足を引っ張り合っちゃうか、なーんて、いろいろな要因があり過ぎて、把握しきれないでしょう。

そりゃそうですね。

メヒシバ 私に言わせれば、つる性の植物の方が、悪質!

悪質?

メヒシバ 彼らは、回りくどいやり方じゃないの。素早くほかの植物に巻き付いたり、地面を覆ったり。葉っぱで、全体をカバーして、日陰にしてしまうんだもん。単純かつ最強の戦術を使うからなー 日陰にされたら、有無を言わさず枯らされちゃう。私たち、細長くて弱いから、つる性の植物が巻き付きにくいし、隙間から、細長い葉っぱを出せる。つる性植物にも、私たちは対応できる方(ほう)ではあるんだけど、それでも、彼らと正面切って戦うのは、ちょっと、嫌だなーこういう分野は、クズさんが、詳しいから聞いてみたら?

クズって、葛餅(くずもち)とか葛湯(くずゆ)のクズですか?

 
メヒシバ そうそう。ところで、話を戻すけど「能力」にこだわりを持つ、あなたが、好きそうな話をしてあげようかなー

はい?

メヒシバ 人間って、催眠術というものがあるんだってねー。
ある人が、催眠術師の所へ行って頼んだんだそうよー。私の欠点を全て治してくださいって。

催眠術で自分を変えたりするのは、聞いたことありますが……

メヒシバ そう。「気が短い」所は「おおらか」にするとかさ。自分が気に入らない癖をいろいろ、催眠術で治してもらったの……

いいなあ。

メヒシバ そうかなー。その人は、欠点が無くなって、ハッピーと思ったけど、だんだん、自分が自分でないように感じ始めて、滅茶苦茶、精神的に不安定になった。「戻してくれ」と催眠術師の所に、また行ったけど、戻らなくて、大変なことになったってー

うわ……なんで、そんなことに……

メヒシバ スギナが言ってた通りね。どうかすると、あいつ――あなたのことよ――は、自分を全部変えたいって思ってそうだって。
やっぱり、あなたには、これの不自然さがわからないんだね。
個性や習性って、土台みたいなものでしょう? 気に入らないからって、そんなに、急激に土台全部を変えようとか……

もっと極端に言えば、ちょっとしたことですぐに骨格全体がグキグキ変わってる感じ?

どんな凄い技術を使ったとしても、はっきり言って、どうかしてるし、病的よ。怖い怖い、大事な中心が崩壊するわよ。

おせっかいだけど、その性急さは、気をつけた方がいいわよー
あ、私、言い過ぎてるかな?

い……いえ、肝に銘じたいと思います。

メヒシバ 使いようによっては「弱さも強さ」よ。
私たちの事を、雑草の女王なんていう人もいるみたい。そこまで言われちゃうと、さすがに、ちょっと、くすぐったいけどね。
あなたのこと、ほかの植物から伝わってくるけど、あなたも、いい所たくさん、あるような気がするんだけどなー。自分を認めてあげればいいのに。

は、はあ……
 
メヒシバ スギナが言ってた。
「なーんで、ただ、自然にしてればいいのに、人間は、自分の存在とか、いろいろな関係性とかで思い悩むんだろう」って。
私たちも、いろんな関係性の中で生きてるけど、そんなに思い悩む事なんかない。ただベストを尽くしてるだけ。
あなたみたいな人は、いろいろな実感や意味を自分で確認できなきゃ、生きていけないみたいだから、大変ね。
生きている実感の確認……
あなた、ヘクソカズラちゃんなんかと気が合いそうね。
 
キョウチクトウさんにも、ヘクソカズラさんと話すのを勧められました。今度、話を聞いてみます。

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