文字喰い ~モジクイ(アヤの妖怪退治シリーズ)
私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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――チッチッチッチッチ
私は、どこまでも並んでる本棚の間を、舌打ちしながら動く。暗闇の中、その反響を耳で聞きながら、どこに何があるか把握する。エコロケーションと呼ばれる技術だ。
あたしたちは、暗闇で戦わなければならないことがあるので、皆、この技術を持っている。
あたしは、あの女の子の事を思い出した。
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この屋敷の客間で、あたしと依頼主は、依頼内容を確認をした。
その時、ドアの隙間から、女の子が覗いていたのは気づいていた。
部屋を出ると、小学生くらいの年齢の女の子が近寄って来た。
「お願い『あれ』を殺さないで」
と彼女は言った。
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――チッチッチッチッチ
謝礼を前金でもらった上に、予定の日に酔いつぶれてるなんて……
あんの! ババアっ!
……ごそっ
音がした。何かが動いた。
いけない、いけない。集中、集中……。
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あたしは、彼女の問いに答えなかった。
『それ』を殺してくれ、というのが、今回の依頼だったから。
「お願い! お父さんも、お母さんも死んじゃって、わたし、学校にも行けない、悪い子なの。でも、あの子たちは、私になついてくれたの」
両親が交通事故で死に、祖父に預けられた彼女は、
偶然、地下の書庫に入ったらしい。
そこで、本を読んでいるうちに、使用人が気づかず、電灯を消してしまった。
あまりにも広い書庫の中、真っ暗になってしまって、彼女は、恐怖に襲われた。
声も上げられない。
そんな時に、彼女のそばに『あれ』が近づいてきた。
彼女は最初『それ』に恐怖したが、
『それ』は穏やかな存在だということがわかった。
見えないけれど、体も触らせてくれた。
しきりに、彼女の周りにすり寄っては、離れを繰り返した。
彼女もピンと来た。
『それ』を触りながら、ついていくと、出口のドアまで、辿り着くことができた。
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――チッチッチッチ
モジクイなんて、絶滅したと思われていた。
滅多にいない妖怪で、モジクイの生態は、謎に包まれている。
暗闇の中でのみ行動し、光がある所では絶対に活動しない。
どういうわけか、暗視鏡を使っても、姿を確認できない。
何か、まだ解明されていない特殊な仕組みがあるのだろう。
彼らを追跡するためには、音だけが頼りになる。
モジクイについては、わからない事だらけだが、モジクイが住み着いた書庫や図書館は、白紙の本が増えていく。
文字を食べているんだろうか。
それ以外のことは、何もわかっていない。
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女の子は言った。
「お願い! あの子たちには、レシートや、チラシの文字だけ食べて、
図書館の本の文字を食べないようしつけるから。
あの子たち、悪い子たちじゃないの。お願い、殺さないで!」
あたしは黙っていた。
「野生生物」に「これは食べないで、この餌だけ食べろ」と、しつけるのは不可能だ。
そして、下手に餌を与えて数が増えても……
ん? あの子……たち?
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―― チッチッチッチッチ
……ごりっ
今度は、こっちの方が動いた。二匹いる?
一つの気配は小さい。
もう一つは大きい。
私は七千冊もある依頼主の蔵書の中を歩き回った。
――チッチッチッチ
モジクイの動きは非常にのろい。ただ、漆黒の闇の中、複雑な場所を移動するから、捕えにくいだけだ。
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――チッチッチッチッチ
どのくらい追いかけっこをしただろうか。ようやく、小さい奴に追い付いて、そいつの柔らかい甲羅みたいな体に触った。捕まえた。
―― キーー! キーーー!
ぱたっ! ぱたっ!
急所を見つけて、モジクイの体内に右手を突っ込んで………………
う……相手の感情が、私の中に流れ込んで来た。
捕まえられ、殺される恐怖……
モジクイは人間には危害を加えないし、抵抗する力もない。
ただ、彼らなりに、生きている事が、彼らの営みが……人間にとっては、不都合なだけだ……
モジクイの核をつかんで……
ごそごそごそ……
――ギーーーー!
ん? 大きいもう一匹が、モジクイにしては、物凄いスピードでこちらに、近づいてくる。
ああ、そっか……仲間……いや…………この子の親……か……
あたしは、すぐそばまで来たもう一匹のモジクイを……
もう一匹のモジクイから伝わってくる感情は、恐怖じゃない……強烈な……怒りと哀しさだ。
―― キーー!
―― ギーーーー……
ばたばた……
大きい方のモジクイの体内にも左手を突っ込んだ。
妖怪の急所は、初見でも、波動でだいたいわかる。
あたしたちは、そういう訓練を受けている。
あたしは、急所を握り、砕いた。
―― シューー!
二匹の妖怪が、消滅する音が聞こえた。
■
…………あれ、おかしいな。なんで、目から液体が出るんだろう。
あはは……おかしいな……多分、疲れてるんだ。
ってえ! こんなの、あたしらくない!!!!
こんな感性があったら、仕事できなくなるじゃん!
ああ、もう!!!!
婆ちゃん、なんで、こんな仕事を押し付けるんだよう!!!!
婆ちゃんが次の仕事してきたときは、しこたま大吟醸を奢らせてやる!!!!
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