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猫のたかは考えた『歯医者の予定がキャンセルになってイライラすること』について

今日、まめ子には歯医者の予約が入っていた。まめ子は、随分と前にこの予約をしていた。クリーニングという予約だ。僕は、まめ子がクリーニングという予約をしている理由が、よく分からない。なぜなら、まめ子は毎日毎日、ブンブンと音がする電動歯ブラシを使って、念入りに磨き上げているからだ。毎日、クリーニングをしているのに、さらにクリーニングに行くという理由が、僕には全く分からない。

それにしても、まめ子は、随分と前にとった今日の予約を、ちゃんと覚えているからすごい。僕は今日のことを考えるだけでも、精一杯だ。明日のことなんて考えられないし、それに何ヶ月も先の話なんて、僕にとっては、もう頭が真っ白になる。まめ子はこの予約を、3ヶ月前から持っていた。それを今日朝起きて、忘れずにいる。本当にすごい。

まめ子が外に出かける時は、まめ子の顔に赤と黒の色が、はっきりと出現することを知っている。おめかしだ。でも、今日は面白いことがあった。なんと、黒の色しか強調されていなかったんだ。いつも、唇の周りが赤色に強調されるのに、今回は赤色がなかった。赤と黒が同時に出現しないなんて、なかなか珍しいことだ。

まめ子は出かけると、大抵すぐには帰ってこない。おめかしがあるお出かけは特にそうだ。それなのに、まめ子はすぐに帰ってきた。僕は、ひと眠りしようとしていたから、いきなり玄関の扉が開いて、びっくりした。どうやら予定していた歯医者は、キャンセルになったらしい。何だかよく分からないけれども、歯医者のシステムの都合で、システムがシャットダウンしてしまったらしい。

まめ子は前もって予定をしていたのに、予定通りに物事が進まなくて、とてもイライラしていた。予約を取り直したそうだが、まめ子のイライラはおさまっていない。3か月間忘れずに、今日まで覚えていたのに、また覚え直しをしないといけないからかな。いつもなら、まめ子は家に帰ってくると、僕の名前を呼んで、そして僕を撫でてくれる。今日は、なんと全部スルーされた。

僕は、そもそも予定というものを持っていないから、「予定通りにならない」という感覚がよくわからない。僕は毎日、その一瞬一瞬を生きることをしているだけだ。僕の予定は1つもない。僕は、かなりの時間を寝ることと、考え事に使っている。でも、寝る予定とか考え事をする予定とか、そんな決まった予定は一切ない。

振り返ってみると、まめ子が僕の保護施設に来たのは、突然だった。僕はいつも通り、兄と弟と一緒に、お気に入りのボールを転がして遊んでいた。そして、まめ子とまめ子の夫がやってきた。僕はあの日のことをよく覚えている。なぜなら、まめ子とまめ子の夫が去った後、僕はあちこち色々な部屋に連れていかれたから。

僕は保護施設から、まめ子とまめ子の夫に引き取られ、この家にやってきた。その結果、僕には、かなり広いスペースの遊び場が与えられた。ここのどこに、僕の予定があるだろう?一つもない。僕は何一つ予定なんてしてなかった。

僕は保護施設にいた時は、走るということが全くできなかった。なぜなら、そんなスペースがなかったからだ。でも僕は今日、全速力で走った。なぜかというと、ハエを追ったからだ。ハエを捕まえるのは、爽快だ。僕は本当にありったけの力を出して、思いっきり走る。勢いあまって、ハエをアタックした時に、宙返りしそうになることもある。

僕は走るということを、予定していただろうか。全く予定してない。まめ子とまめこの夫に出会ったから、この家にやってきて、ハエに出会えた。そして、ハエに出会えたからこそ、僕は走る喜びを知ったんだ。

僕は、まめ子が外へつながる扉を開ける度に、実はワクワクしている。なぜなら、ハエが家の中に入ってくるチャンスが増えるからだ。僕が以前いた保護施設には、ハエがいなかった。そして、僕が保護施設に来る前にいた家にも、ハエはいなかった。僕は、まめ子の家やってきて、初めてハエというものに出会った。僕は、ハエと会うことを予定していただろうか。全く予定していない。

今日、まめ子がイライラして帰ってきたけれど、まめ子がルンルンな気分で帰ってくるなんてことを、僕は予定していただろうか。全く予定していない。もちろん、まめ子にスルーされることも、僕は予定していなかった。でも、僕は大丈夫だ。まめ子の気持ちが落ち着くまで、いつまでも待つことができる。

僕はまめ子と出会ってから、様々な新しい経験をしている。でも、僕は何一つ予定していなかった。僕には予定が一つもないから、そもそも「予定通りでない」ということは起きない。そして、「予定通りでないこと」がないから、そもそもイライラしない。それに、僕はどんな予定がやってきても、与えられた場所で、与えられた状況で満足することを知っている。

僕はこれからも予定を持つことはない。本当のことを言うと、予定持つことができないんだ。今日のことしか、考えられない。予定を持つことはないから、明日何が起きるかなど、全くわからない。でも、全く問題ない。僕は大丈夫だ。僕は今日を生きるだけ。明日のことは、気にしない。明日は、明日考える。


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