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2013エビ中初現場のはなし【前編】


2013年11月9日。私が初めてエビ中の現場に行った日であり、私の人生における「最推し」である真山りかさんと初めてお話しした日である。今日でちょうど10年。ただオタクしていただけとはいえ、10年間それなりに高い熱量を保ったままエビ中を追い続けてきたことには多少の感慨深さは感じているので、この機会に文章とイラストで振り返ってみたいと思う。なお、エビ中の話というより私の体験談や当時の気持ち、更には心象風景の描写が中心となるので、オタクの昔話と自分語りなんて興味がないという方の閲覧はおすすめしない。また、軽く過去を振り返る記事を書くつもりが、無駄に長編になりそうな様相を呈してきたので、前・後編、もしくは前・中・後編に分けて公開する。

「ねえ、真山推しになっても良い?」
「いいよ!ありがとう!」
満面の笑顔で答えたハイテンションガールは、私の右手にふわりと添えていた両手を、その刹那僅かに締めた。
そして私は宇宙に落ちた。

2013年11月9日土曜日。当時シフト制で働いていた私はソワソワと上司の動向を気にしていた。
当時の勤務先では、時たま人数調整のため早退希望者を募集することがあって、その日はその号令がかかりそうな雰囲気を私のお局センサーが捉えていたからだ。

しかし、元来トロい性質なので、そういった時は大抵その選から漏れてしまい、結局定時まで働くことが多かった。しかしその日だけはどうしてもその少ないフラッグを勝ち取りたかった。

というのも、その日はお台場で私立恵比寿中学、略してエビ中のニューシングル「未確認中学生X」のリリースイベントが行われる予定だったからだ。

数ヶ月前、私はエビ中の1stフルアルバム「中人」を聴いた。きっかけは、氣志團万博でももクロとエビ中が共演するからその予習にでもちょっと勉強するかくらいの軽い気持ちだったように思う(ちなみに氣志團万博のチケットはうかうかしてる間に売り切れてしまい、結局その年は行くことができなかったのだが)。

中人を聴いた私は脳に電撃が走った。これはアイドル史に残る大名盤と言われる(私調べ)ももクロの1stアルバム「バトルアンドロマンス」に優るとも劣らない名盤ではないか。

当時ももクロのファン、通称モノノフだった私は、長いことエビ中といえばももクロと同じ事務所の後輩で、ちょっと変わった声の子がいるグループぐらいの認識しかなかった。楽曲もメンバーも子どもっぽいイメージで人数も多いし、あまり合わなそう…と食わず嫌い状態で深く知ろうとはしていなかったのだ。

しかし「中人」は、若いアイドルらしい楽しさも大いにありつつ、曲のバリエーションも豊かで永遠にリピートしたくなる魅力があり、少女期に特段美しい思い出も無いはずの私が中学時代を回顧してノスタルジックな気分に浸ってしまうような作用も持ち合わせていた。…と、グダグダ語ったが、簡単に言うと私の好みのゾーンに直球で刺さったのだ。

それからというもの、エビ中の動画や円盤などを見漁って数ヶ月思いを募らせていった。

今思えば、気になった時点で直近のライブのチケットを探して行くべきだったと思うが、その頃はアイドルオタクとしての足腰ができていなかった。オタク用語としても用いられる“フッ軽”という言葉があるが、フッ軽になるにもオタクとしての基本的な知識と素養、度胸や体力がないとなかなか踏み出すことができないものだ。ドルヲタ的足腰の弱かった私は、何ヶ月もただただ映像を見てはホームページのメンバー紹介と照らし合わせて、「これは…なっちゃん!?いや、裕乃ちゃんだったー!」みたいな1人遊びをしていた。

そして迎えた11月9日。
優先エリアがどうの、特典会がどうのなどはよく分からなかったが、とりあえず時間までにお台場に行けばエビ中が見られることは把握していた。しかし無情にもその日は勤務日。

そこで私は先手を取り上司に、早退を募集するなら私が帰ろうではないかとあらかじめ伝えた。ベテラン従業員のフライング気味の申し出に上司はやや訝しげな表情を浮かべたが、めでたく早退争奪戦に勝利した私は、退勤打刻から10分後にはJR新宿駅1番線からりんかい線直通列車に滑り込んでいた。

あの時の胸の高鳴りは10年経った今でも忘れられない。

しかし大崎からりんかい線に突入する頃、エビ中現場での決まり事やお作法など何一つわかっちゃいないことに一抹の不安を覚えた。そしてとりあえず私はカバンに付けていた赤いももクロ再結束バンドを外し、うっかりと出てきてしまわぬようカバンの奥底にしまった。当時、エビ中のオタクは排他的で特にモノノフには厳しいというような通説があり、私はそれを唯一のエビ中現場の知識として鵜呑みにしていたからだ。

期待と不安を胸に、MEGA WEB トヨタシティショウケースに到着した私は2階から階下のおびただしい人の群れを目の当たりにして即「フリーライブは時間ギリギリに来るものではない」ということを学んだ。

そもそも、既に初めてのさいたまスーパーアリーナ公演が決まっていた当時のエビ中に、都内であのキャパシティでは無理があった。

こんな人混みでエビ中が見られるのか不安になりつつも、物販スペースでTシャツ、タオル、ペンライトという初心者セットみたいな買い方で一式グッズを揃え、もちろん新曲「未確認中学生X」のCDも購入した。

今となっては本当に有難い服装自由なエビ中現場

その時物販のスタッフに「優先券はありませんがエビ中券はありますけど要りますか?」と呪文のような言葉を浴びせられた。ここで素直に、エビ中券って何ですか?無料ですか?とか聞けば良かったのだけど、私はあいにく地方に行ったらまるで地元民みたいな顔でバスの後ろドアから乗って、後で整理券は?と言われて青ざめるみたいなタイプなので、そういう質問は出来ない。知ったかぶりの顔で「あ、じゃあエビ中券で」と言うと、CDと一緒に「エビ中券」と書いた厚紙が手渡された。

後編につづく

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