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Welcome to New York!!! - ミストレス・アメリカ

ノア・バームバック監督作品、『ミストレス・アメリカ』。グレタ・ガーヴィクも脚本に加わっている。
『フランシス・ハ』の雰囲気を持ち、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』的な要素も持っている作品。テンション高めのBGMがブルックのキャラクターと相まって心地よかった。

大学入学を機にニューヨークへやってきたトレーシーが主人公。母親の再婚相手の娘である年上の女性・ブルックに出会い、憧れ、失望し、分析し、別れ、そして最後に歩み寄るというストーリーが描かれている。

トレーシーは大学1年生の18歳、ブルックは30歳。
30歳の側から見た18歳は、確かに年下で若いが、大幅に距離を感じるような存在では無いと思う。しかし、18歳の時に見た30歳は相当大人に見えた。さらに、その30歳がニューヨークでの生活を謳歌しているときたら、かなりキラキラして見えるだろう。トレーシーが憧れて影響を受けてしまうのは納得できる。
そして、周りのイケてる大人に影響を受けたが、案外とあっさり失望してしまうこともよくあることで、何故こんな人に憧れたのだろうか、影響を受けたのだろうかと分析するのも分かる。
だが、その先に、この人を小説の題材にしてみようと思う人は少ないのではないか・・・と思ったのだが、映画・小説などジャンルを問わず、作品を作る人たちにとってはよくあることなのかも知れない。『ヤング・アダルト・ニューヨーク』でもそうだった。

今作も「あー、こういう人いる・・」と思わせる共感性の高いキャラクター達が魅力的だった。
なかでもブルックが良かった。
『フランシス・ハ』の主人公と少し重なる部分がある、突っ走り系。とにかく自分に自信があり、とにかく明るく、アイデアも豊富でノリが良い。普段の勢いや行動力は凄まじいが、いざとなると動かなくなって物事を逃すことが多かったりする。都合が悪くなると、なんだかんだと周りのものに理由をつけて逃げて行ったり。
でも、こういう人、嫌いじゃない。
トレーシーと初対面の場面で「Welcome to New York!」なんて叫びながらタイムズスクエアの階段を降りてくる感じの人。見ていて面白いし、なによりも周りを動かすパワーがある。

反対に、トレーシーが完全なる善人かというと、そうでもない。
冷静沈着で、いつも一歩引いたところから物事を見ている。
ブルックに影響され自ら動くことが多くなった後も一歩引いたところから物事を見る性格は変わらないようだった。
そして、ブルックの行動や思考を分析し小説を書き始めると、時には物語の展開のためにブルックを持ち上げて、誰もが嫌な予感しか感じていないのに昔に仲違いした友人を訪ねさせたりしてしまう。
その上、「失敗の香りと腐臭がする」などと、いくら小説とは言え明らかに失礼なことを書いてしまうような大胆さも持ち合わせている。
つくづく他人が何を考えているのかは分からないと思わされるが、私自身はトレーシー側の人間だと思う。だからブルックのキャラクターに惹かれるのだろう。

最後、ブルックが引っ越すことになり、その理由が「ニューヨークにはうんざり、工事ばかりしている」だった。
本当のところは小説騒動を含め様々な理由があるのだろうが、違う理由にして、自分にもそう思い込ませる。その強気なところが魅力。
最後までブレないブルックが愛おしく感じた。

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