出版はツイッターでのマーケティングから
16冊目の著作となる『シン地政学”安倍後”を読み解くマネー、オイル、暴力の方程式』発刊に際して、私が本を出版するまでの経緯を書いてみることにしました。
私が本の出版をしようと思ったのは2015年夏のことでした。その年の8月に山口組が六代目山口組と神戸山口組に分裂します。当時、既にヤクザを引退することを考えていた私にとって、この出来事はその背中を押してくれることとなりました。
年内に引退することを目標にした私にとって必要だったのは、引退後のヴィジョンです。23年間続いたヤクザ稼業から足を洗い、堅気として生きる上で何が出来るのか?残された人生を有意義に過ごす方法はあるのか?思い倦ねる毎日でした。
新しい人生はマイナスからのスタートです。何をやっても元反社会的勢力という経歴が付いてくることも承知していました。幸い、ある程度の資産は残せていたので生活に対する不安はありませんでした。しかし、ただ生きるだけでは虚しい人生です。このまま社会に埋もれてしまうが怖かったのかも知れません。
2015年8月26日、山口組は六代目山口組と神戸山口組に分裂しました。私が籍を置いていた組織は神戸山口組側です。分裂とはいえ、六代目山口組から離脱した13団体が新団体”神戸山口組”を旗揚げするというものでした。過去の歴史からも、本体から離脱した組織が生き残れないことは明白です。
ましてや、ヤクザの世界では盃による擬制の血縁関係は絶対のものです。神戸山口組はこの不文律に挑戦したのです。2つの山口組が平和に共存できるわけありません。いずれ力による衝突は避けられないことは明白でした。そして、神戸山口組が”逆賊”の汚名を晴らすには「勝てば官軍」という道しか残されていなかったのです。
山口組が分裂する8月26日の2週間ほど前に、神戸では不穏な空気が漂っていました。分裂に向けての動きが活発化していたからです。既に引退時期を模索していた私も、この一件でその準備に取り掛かったのでした。
そして、分裂の1週間前、それまで3年間ほど放置していたツイッターを再開しました。多くの構成員が知らぬ所で上層部が分裂を進めていることに不満がありました。神戸山口組は遅かれ早かれ消滅することになります。上層部は、命運を共にする末端の構成員まで情報公開するべきだと考えたのです。しかし、それが叶うはずもありません。そこで、私は自身で情報発信することにしました。
ツイッターの魅力はなんと言ってもリアルタイム性と情報の拡散性です。ツイッターユーザーはリアルタイムのトピックを追い求めています。山口組の分裂騒動は強烈なフックになり、注目を集めることは間違いありません。ツイッターを通して私の持つ情報がどのように価値を持つか、どのように影響するかを実験することは、今後の人生におけるマーケティングでもありました。
当時、私は山口組の内部関係者=インサイダーという立場です。情報が価値を持つことは証券取引で思い知りました。山口組の重要な情報を利用しても、株のようにインサイダー取引で証券取引等監視委員会による刑事告発もありません。その点において、有意な立場にあったのです。
ツイッターを再開するにあたって、第一の目標をフォロワー数の拡大にしました。拡散性を高めるためです。拡散性が向上すれば注目度も上がります。そしてこの両者は相互に作用する効果があります。第二の目標はマスメディアへ取り上げさせることでした。ツイッターの一般ユーザーが拡散し、著名人やメスメディアが取り上げることで話題になることを狙ったものです。そして第三の目標が本の出版です。
こうして、私は山口組が分裂する1週間前にツイッターを再開したのでした。再開した当時のフォロワーは約3,000人です。そして、8月26日から山口組分裂について情報発信を始めたのです。フォロワーは分単位で増えて行きました。1日で2,000人くらいにフォローされた記憶があります。
やがて、思惑どおりにメディアも注目し始めます。1ヶ月ほどでフォロワーは19,000人を超え、いつしかツイッター組長と呼ばれるようになりました。ジャーナリストをはじめ、各分野の著名人フォロワーも増えていきました。
10月末にはフォロワーも24,000人ほどとなり、この頃マスメディアからの接触も始まります。早速、大手出版社からも出版について打診がありましたが、丁重にお断りしました。まだ時期ではなかったからです。
話題性やブームで本を出版しても、それは一過性のもので終わります。山口組の分裂はセンセーショナルな出来事でブームになりましたが、やがてそれも終わります。話題性に乗って本を出版する人はいますが、だいたいが1冊、2冊で消えて行きます。私の次の目標は、継続的に本を出版するというものでした。そのために、新たなマーケティング戦略が必要となったのです。
次回はツイッターの分析と週刊誌連載についてです。
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