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極東から極西へ6:カミーノ編day3(Bizcarreta〜Pamplona)

前回の粗筋
少し距離を短くして街を楽しむ事にした。
夕食は多国籍な感じで楽しかった。

前の話

 今回は、本来のday3の目的地である、パンプローナを目指す。ビスカレッタからパンプローナまで、34.62kmの長丁場だ。この為にゆっくり休んだのもあるけれど、行程表を見るとかなりきつそうだが?


・嵐の夜から朝にかけて

 夜中に雷の鳴る音がした。
 雨が激しく屋根を叩く音がして、目が覚めた。Sさんも一瞬起きた気配がした。

「雷だね」
「ですね」
「洗濯物がやばいかも」

 外のテラスに干した洗濯物が気になるが、身体が起きてくれない。
 その内に再度うとうと眠りに誘われたのだが。

「?」

 何かが、バタバタと飛んでいる。
 部屋の中を行ったりきたりして気になる。Sさんは気づかずに寝ている。

「!」

 何かは、あろうことか、私の頭の上に着地した。じっとしたまま数分間、やがてまたバタバタと飛んでいった。もし蛾なら同じ部屋にはいられない。
 トイレに行くタイミングで、正体を見極めることにした。そっと起きて、お風呂場の電気を点ける。バタバタは、どこだ……いた。蛾ではなく、大きなバッタが壁に張り付いていた。トイレを済ませて、また時間まで寝る事ができた。

 5:00になり、目覚ましが鳴り、目を覚ました。雷も雨も止んでいるようだ。Sさんも目を覚まして伸びをしている。部屋の電気を点けると、窓が少し開いていた。

「さっきさ、バッタが入って来てたんだよね。かなりでっかいやつ」
「え、どこですか」
「どこだろ、あ、いた。キリギリスだね。大きいなあ」

 壁に大きなキリギリス。明かりに驚いてまた飛び、Sさんの荷物の上へ。Sさんが外に逃がそうとするとまた飛んで行方不明。
 荷物周りを探すSさんを尻目に日記をつけていたら、目の前にキリギリスが。

「あ、ここにいた」
「ちょ、教えてくださいよ。私めっちゃ探した。私、今、自分の荷物に入ったんじゃないかって、めっちゃ探してた。何キリギリスと一緒にこっち見てるんですか。教えてくださいよ!」

 キリギリスと顔を見合わせた。
 無事に彼、または彼女はSさんに追い出された。

・Bizcarreta〜zubiri

 6時定刻。ベッドライトを点け、階下に降りるとメレディスが支度をしていた。

「おはよう!」
「おはよう! 一緒に行ってもいい?」
「勿論!」

 と言うことで、彼女と一緒に歩く事になった。3人分のヘッドライトが街を照らした。


まだ暗い。3人だから心強い。

「さて、どっちかしら」
「多分、こっち。スーパーの側にモホンがあった」
「じゃあ、こっち!」

 スーパーの手前に目印。抜けるとすぐに森の中に入る。

「暗すぎるね」
「私一人だったらどうしようかと思った。二人がいて良かった。ライトも3人分!」

 足元を照らし、道を確かめながら一歩ずつ進む。昨夜の雨のせいで、道はぬかるみ下り坂なこともあって、かなり歩きにくい。

「昨夜は酷い雨だったね」
「ほんと酷い雨。窓が開いちゃったのよ」
「私達の部屋も。バッタが一匹入って、私の頭に乗ったの」
「わあ、それはびっくりね」

 ズビリまで、行程表ではかなりの下り坂。実際歩いてみると、岩だらけ、石ころだらけの道だった。メレディスと趣味の話や互いの国の話をしながら降りた。

「アメリカの人は、日本が好きな人が多いわ。文化だったり、音楽だったりね」
「日本人もアメリカ好きな人多いと思う。映画とか、私は本も好き」

 その内に、地層が真横になったような、ワニの背に似た地面になった。ノコギリのようになっていて、転んだら確実に腕を切る。お互い慎重に降りた。

「早朝の出発は好きなんだけどね。静かだし、気持ちいいし。暗いのは大変だけど」
「星も見えるしね。日の出は7時14分だって」
「じゃあ、7時くらいには少し明るくなるかな」

 彼女はスペインの大学に通っていたことがあるそうで、スペイン語を話す事ができた。その時に日本人の留学生に出会ったそうだ。
「彼女は、スペイン語も英語も完璧。大学ではなんとバスク語を勉強してたの。バスクの通訳になるんだって言ってた。きっとなったと思う」
 初日の台湾の子といい、皆、他の国の言葉を普通に話している。彼女の出会った日本人の留学生はかなりレアケースなんじゃないだろうか。日本人で他の言語が堪能な人は少ない。
 そういえば、昨日の多国籍晩餐会では英語が最強、と言う話をしていたんだった。

「みんなすごいよ。私は小学校の頃カナダにいたけど、全然。小学生で英語力は止まってる」
「カナダ! ああ、だから。あなたの英語、悪くないわ。元々日本語と英語は全く違うタイプの言葉だから、日本人が学ぶのは難しいと思うし」

 確かにラテン語圏同士は学びやすいかもしれないけれど、それじゃ、台湾や韓国、インドネシアの人達はどうなるのか。

 そんな話をしながら降りていたのだが、無言にならざるを得ないような、アリゲーター(カリフォルニアにいるらしい)の背のような坂を降り続けた。

 平なところは僅かで、ほぼ急な下り坂。足がいい加減パンパンになった頃、漸くズビリの街が見えてきた。


明るくなってきた。ここはまだ平和な道。
日の出。少し天気が怪しいか?


街に入る。
石造りの橋が街の入り口
屋根が見えてきた。


「私達、やったわ!」
「本当、よくやったよね。お腹すいちゃった。どこかで食べられるといいんだけど」


青かびチーズのトルティージャ。
トルティージャはタンパク質とでんぷんが取れるので、朝ごはんに丁度良い。

 朝ごはんを食べて、メレディスとはここでお別れ。彼女はパンプローナで仕事をしてからまた歩くと言っていた。荷物をズビリの町に送っていたトリニダード・トバゴの二人と会い、4人で再会を喜び合う。トリニダードの二人を追いかける形で出発。

「またね! パンプローナで会いましょう」
「ええ、パンプローナで!」

 また会えるだろうか?
 メレディス、いつか日本に来たら一緒に山登りしようね。

・zubiri〜pamplona


 山道を延々と登って降りていく。
 抜きつ抜かれつ。

「私達、遅いから先に行って?」
「いやいや、君達は速い。だって僕らの先にいたじゃない」

 そんなやり取りを道々でしていたのだけれど、トリニダードの女性は、体調が悪いと言って途中の街でお別れだった。男性はやっぱり速く先に行ってしまった。


矢印とホタテ貝を追いかける。
バスクへようこそ! 
家や倉庫の壁にカミーノ関係の絵が良く見られる。

 本来のday3はズビリから出発なので周りに巡礼者は少ない。景色を楽しみながらも、かなり強行軍だったので、脚に疲労が増していく。
 18時に巡礼者のミサがあると、アプリ、ブエンカミーノのアラートがあったけれど、中々前に進まない。
 
 パンプローナに着いた時は既に18時。強固な中世の城壁の中にある街。ビルや大きな公園のある地方都市を抜けると、壁が見えてきた。城壁の街は攻め入られないようにする為か、少し坂を登る。ピレネー越えに引き続き脚はパンパンで、やっとの思いで石畳を上りきった。


パンプローナに着いた


城壁。橋を跳ね上げる装置がある。


牛追い祭りのイラスト


 メレディスは大きな街だからアルベルゲはあると思うけど……と言っていたのだけれど。

 ごめんなさい、今日は一杯なんだ
 もうベッドは無いです。
 今日は一杯。

 やばい。
 ピンチョスで有名な街。立ち飲みで通りは賑わっているけれど、二人で途方に暮れた。なんとかホテルを予約して、シャワーを浴び、倒れ込むようにして横になった。35km近い歩行。もう2度とやるまい。

「夕飯食べに行きましょうか」
「だね、……あ、待って、疲れすぎて勝手に涙出てきた。つかSさん元気だね」
 
 流石、若いなー。

「足が痛かっただけですからね。ただもうこの距離はいいかなー」

 Sさんの足をふと見ると、絆創膏だらけだった。靴が合っていないのだろうか。少し心配だ。
 ピンチョスを軽く食べて、次の日のアルベルゲを予約し、この日は終了。


ナスのピンチョス。
上に刺さっているのは生ハムとピーマン。


 今更だけれど、早朝出発の昼過ぎに着くのが良いという事を痛感した1日だった。
 明日は巡礼者のお店で装備を整えてから、王妃の橋、プエンテ・ラ・レイナを目指す。


 次の話


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