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奇談短編 紙

古紙


突然の御連絡失礼致します。この間はどうもありがとう御座いました。お陰様で私達一同無事に過ごすことが出来ました。つきましては後日、御自宅の方へお邪魔させて頂く所存でございます。
貴殿様の慈愛に満ちた所作に心奪われてしまったことを深くお詫び申し上げたく存じます。何卒今後ともご愛顧宜しくお願い申し上げます。鍵を開けてお待ち頂けると色々と幸甚に存じます。すぐに参ります。

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この変な文章で綴られた古い手紙を見つけたのは、旅行中骨董品屋で買った置物の中だった。以前の持ち主が貰った手紙なのか、それとも書いた手紙なのか、わからない。
ただ、この手紙を発見した時、まるでついさっき書いたばかりのようにインクがぬらりと光っていた。
この日以後、夜の施錠確認を欠かさず過ごしている。


貼紙

連休を取り、日々の疲れから解放されて、自然に浸りながらゆっくりハイキングでもしようと、街から遠く離れた自然豊かな観光地に宿を取った。
宿泊地も厳選に厳選を重ね、あまり人気は無いが、最高な場所を選ぶことが出来た。
当日、朝早くから家を飛び出し、宿にチェックインしてすぐに山へ向かった。
自然を感じながら歩いていると、流れる汗の一滴一滴から日頃の鬱憤やストレスが流れ出ていくような気分だった。
山頂に近づいた頃、ふと、辺りを見渡したときに気がついた。
立派にそびえ立った一本の木に紙が打ち付けてある。

『慌てないで下さい。まだ大丈夫です。』

何の事だかわからないが、頂上が近くなって気が緩くなる登山者への注意喚起だとか何かだろう、と気にせず進んでいく。
やっとのことで山頂に辿り着き、大きく息を吸いこんだ。他に登山者は見当たらず、少し寂しい気もした。
そこまで高い山ではなかったが、やっぱり疲れるし、山頂に着いた時の達成感は素晴らしいものがある。水筒に口をつけながら、一息ついているときに気がついた。
腰ほどの大きさをした石に張り紙がある。

『いそぎましょう。めに入りました。』

何のことを言っているのかは分からないが、何だが気持ちが悪い。注意喚起の張り紙とかではないのか。 

もう少し休みたかったが山を降りることにした。途中、木々の間からさっきまでいた山頂が見える場所があり、さっきまであそこにいたのかーと眺めていると、山頂近くの木に白い何かが見えた。心臓が急に締め付けられる様な感覚に襲われる。双眼鏡で確認すると、やはりそれは紙だった。

『まってえ』

山頂にいた時にはあんな張り紙なかったはず。
全身が一気に冷え上がるような気がして、早くこの山から離れて宿に帰ろう、と足を進めた時に全身に鳥肌が立った。
目前の木にさっきまでなかったはずの貼り紙があった。

『ここにいます』

無我夢中で下山し、全ての予定をキャンセルしそのまま家へ帰った。
正直その後のことはあまり覚えていないが、とにかく気分が悪く、数日は高熱が出て寝込んでいた。

その後、特に何かあるということもなく、あの体験も日々の忙しさにかき消されていっていた。
ただ最近、会社の近くで木に打ち付けられている紙を見つけた。

『探しています。今探しています。』

今もまだ、心臓が締め付けられるような、ねっとりとした嫌な感覚を抱えて毎日を過ごしている。

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いつもお世話になっています。
信頼できる人があなたしかいなくて、、、いきなりすいません。
上記で挙げた二つの話が宛名のない茶封筒に入れられていました。
発見した場所は、長らくクローゼットに掛けっぱなしにしていた上着のポケットです。
いつ、どこで、なんてものは分かりません。
こんな宛名のない気持ち悪い封筒を人に読ませるなんて非常識で怖いです。
未だに恐怖が拭えません。このマンションに住んでいる誰かが部屋にでも入ったのでしょうか?
やっぱり引っ越した方が良いのでしょうか?
ご返信お待ちしております。


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家に帰ったら郵便受けにこんな手紙が入っていた。
私は引っ越したばかりの一軒家から出ることを決意した。


ご覧頂きありがとうございます♪皆さんが少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです! これからもねこ科たぬきをよろしくお願いします♫