美術展雑談『大阪中之島美術館・超コレクション展 ―99のものがたり―』
大阪中之島にはすでに国立国際美術館があるのに、そのすぐ横にまた美術館ができるの? 正直そう思っていたことを謝ります、ごめんなさい。いざ行ってみると圧倒されました。大阪中之島美術館、巨大です。そしていい匂いがします。美術館の中でクンクン匂いを嗅ぎ回るなんてまるで変態ですが、美術館好きの方ならわかってもらえるはず。新築の美術館は、香ばしいです。新しい建材の匂いというわけではなく、期待の匂いです。大阪中之島美術館、開館おめでとうございます。クンクン!
オープン記念の一発目は『超コレクション展 ―99のものがたり―』。
寄贈されたものやオークションで落札したもの、とにかく結構な数の収蔵品をこれでもかという勢いで並べてくれていました。見終わるまでに、4時間かかりました。もちろん、楽しい4時間でありました。
さすがにルネサンスやバロック美術をガッツリ揃えた由緒正しい世界的な美術館のようにはいきませんが、そのぶん近代・現代のものに力が入っており、私の好きな作家の作品も多くて堪能できました。
中でも目当てはルネ・マグリット『レディ・メイドの花束』です。
山高帽のお兄さんのお馴染みの構図にボッティチェリ『春』の女神フローラが張り付いているのか浮かんでいるのか。マグリットらしい不思議な絵です。考えるな感じろ、というブルース・リー師匠の言葉のとおり解釈にこだわらなくても良いとは思いながらも、わざわざルネサンスの名画をコラージュしているあたり、何かしら意味を考えてしまいます。
これは完全に私の想像でしかないのですが、当時斬新であったシュルレアリスム運動が支持を得てゆくにつれて急進的な論者も現れ、古典からの脱却を目指すあまりにそれらの作品を批判したり否定したりする傾向も増してきたのではないでしょうか。そんな中でマグリットはレディメイド(既製品)と揶揄されかねない古典的作品の価値を花束に見立てて自身の背に写し、ルネサンス期のアートへ最大のリスペクトを表したのではないかと思います。つまり古典を批判する者への逆批判です。新しいものは常に過去のものから再生(ルネサンスの意訳でもあります)されることで生まれてくるのですからね。
マグリットの絵には妙な懐かしさを感じます。かつて子供の頃に見ていたはずなのにすっかり忘れてしまっている、そんな幻視が描かれているからかもしれません。
さらに私の愛するミュシャのジスモンダのポスターもありました。旧サントリーミュージアム天保山(大阪文化館・天保山)のミュシャ展から久しぶりの再会です。ポスターなのだからどこにでもありそうですが、サントリーポスターコレクションからの寄託ということなので同一の個体と思われます。ひっさしぶりやなーと再会を祝って心でハイタッチ。描かれているジスモンダも、どんなもんだと言っていました。
そしてもう一つの楽しみだった、ジャイアント・トらやん。なるほど不気味なかっこよさ、謎の凄みをもって佇んでいます。火を吹くそうなので、気をつけて近づきました。
胸部にはトッチャン坊やがいます。乗り込んで操縦しているのか? それとも映画『ウィッカーマン』のような生贄なのか? 正解なんかはいりません。謎は謎のままにしておくほうが世界は楽しく、豊かなのです。
そんな謎のオブジェを象徴として設置しているとおり、中之島美術館には楽しくて豊かな美術館を目指してほしいと、勝手ながらお願い申し上げます。いつまでもいい匂いがする美術館でありますように。クンクン!
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