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美術展雑談『美人のすべて』

京都嵐山の福田美術館。上村松園先生の作品をメインに据えた美術企画展「美人のすべて」。

鶴田一郎さんや池永康晟さんなど現代作家も好きですが、美人画といえばやはり松園先生にたどり着きます。

静謐で凛として艶やかでチャーミング。モデルとなった映画「序の舞」(中島貞夫監督。原作小説は未読であり、お恥ずかしい)が全て実話というわけではないでしょうが、計り知れない苦悩を突き抜けた人の生み出す作品に強さが宿っているのは当然です。ウマイとかキレイとか、そんなものだけでは誰の心もピクリとも動きません。

今回の展示の目玉になっていたのは「雪女」。本邦初公開です。
挿絵用版画の原画として描かれたということで、いわば頼まれ仕事なわけですが、雪女という幻想の美女を幻想然とし写実的な描写を抑え、人ならざる存在をイメージさせるあたりはハイセンス。ぼやかされた輪郭は印象派の手法でしょうか、薄闇に浮かぶように繊細に輝く無機質な様相に、言葉にならない怨念や情念がこもっているようでもあります。版画になることをむしろ拒むようなタッチに、彫師も摺師も大いに困ったでしょう。それとも商魂たくましい版元や御用評論家らの日和見具合を、松園先生は楽しんでいたのかもしれません。後ろを向いてクスクス笑っている、そんな意地悪な美人なら、なお惹かれます。


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