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腕にヘビを巻いたお嬢様

私が通っていた中学校高校は、当時いわゆるお嬢様学校と世間で呼ばれるものでした。

中学受験をし、憧れのセーラー服に袖を通した瞬間、私は「お嬢様」の仲間入りを果たしました。

中学から大学までエスカレーター式の女子校。
長い者は合計十年その学校に在籍するわけですが、とはいえ、高校進学大学進学の区切り区切りで、外部から新たに生徒が入ってきました。

学校名をもじって、このような呼び名がありました。

仮にスクールカースト的なものがあるとすれば、中学から入った者が上位に位置するわけですが、それは「純金」と呼ばれました。

高校から入る者は「18金」、大学から入る者は「金メッキ」。

「違い」をことさらに取り立てて、上に見たり下に見たりが、清く正しい「お嬢様」の間でも行われていましたた。

中学からそのまま高校に進学した時、友達数人からこう言われました。

「外部から入ってくる子とは口をきかないでおこう」

どうやら純金のお嬢様は、18金のお嬢様とは交わりたくないらしい。

彼女たちは純度を保つことに必死でした。

私は高校に入るやいなや、外部受験をして違う大学に行くことを決めていました。
小学生の頃憧れたお嬢様の世界は、いったんそこに入ってみると、非常に退屈で偏狭な世界で、私はそれにうんざりしてしまっていたからです。

高校進学を機に、外部から入ってきた少女たちと交わることは、私に新鮮な驚きと喜びをもたらしました。
私は彼女たちが吹き込む少しワイルドな風と、彼女たち自身に夢中になりました。


ある時、純金のお嬢様のグループに腕を引っ張られてロッカーの後ろに連れて行かれました。

腕を引っ張られながら、何を言われるかは予想がついていたので、なんだかめんど臭いことになってきたなぁと思っていました。

ですが「めんど臭いこと」は、私の予想を上回っていました。

その中の一人、まつ毛が長く、綺麗な顔をしたお嬢様が、長い黒髪を払いながら言いました。

「あなたと一緒にいるあの子!外部から入ってきたくせにロレックスしてる!」

WOW!!! 

私が外部から入ってきた子たちと仲良くしていることは、この際どうでもいいんだ!

それよりなにより、スクールカースト下位に位置する者が、身の程知らずな物を身に付けていることが、彼女は許せないのです。

お怒りのお嬢様の腕にはピアジェの時計が巻きついています。

まばゆく光るダイアモンドとそのベルトが、蛇の目と胴体のように見えました。

腕に蛇を飼うお怒りのお嬢様を前に、私はなんと答えることができたでしょう。

「この前の中間テストで順位がすごく上がったから、お父さんがご褒美に買ってくれたんだって」

そう言ってから、しまった!と思いました。

このお嬢様は、よくいる「頭お花畑系お嬢様」ではなかったのです。
お嬢様という柔らかいガウンをまといながら、顔も綺麗で、ちゃんとお勉強もできる「才色兼備系お嬢様」だったのです。

そして、中間テストでは順位を落とし、激しい追い上げを見せたロレックスの彼女に抜かれていました。

怒りを表す表現に「キーーーーッ!!」というものがありますが、それがそのまま具現化したならば、きっとその時の彼女の顔の表情が最もピッタリとくるでしょう。

彼女は長いまつ毛を全開にして私を睨みつけると、
「あっちの世界で仲良くね!」
と言い捨てて去って行きました。

お嬢様に見離された私は、私を取り囲むロッカーのグレーにうんざりしながら、ため息を一つついて、ワイルドな風を吸いに戻って行きました。

一昔前の、女子校での話です。

お金と品性は比例関係にない。

このことを私は、「お嬢様」の世界に入ってすぐ理解しました。

お金持ちのお嬢様にも色々いる。

天真爛漫で、難しいことで悩んだり苦しんだりすることとは無縁。
新しいもの未知のものにもオープンなタイプ。

一方、蛇お嬢様のように、縄張り意識が強く、自分のテリトリーに入って来る者には容赦なく毒を吹きかけるタイプ。

その他色々。

ちなみに私は、その他色々の口です。
そもそもお嬢様というカテゴリーに分類されたのかどうかすら疑問ですが、まぁそんなことはどうでもいいこと。


ふと自分に聞いてみたくなる1000の質問 #22

今あなたが属している集団は、あなたにとって居心地のいいものですか?


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