見出し画像

悩みの答えは、いつだって本の中にある。私設図書室オーナーの江角さんに聞く、言葉のお守りに出会う読書法。

慌ただしい日々の中、悩みや疑問が尽きることはありません。時には大きな壁にぶつかり、乗り越えられずに苦しむことも。そんなとき、解決の糸口を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか。「答えはすでに本の中にある」と話すのはフリーライターとして活躍する江角悠子さん。本好きが高じて始めた私設図書室「わたしの居場所」での“ある読書法”は、「こわいほどに今必要としている言葉に出会える」と評判です。その秘密をお聞きしました。




お話を伺ったのは…

私設図書室「わたしの居場所」オーナー 江角悠子さん

京都在住エッセイスト・ライター。「書いて、しあわせになる」をテーマに活動中。京都で私設図書室を開く。書籍「亡くなった人と話しませんか」「星のビブリオ占い」構成担当。2児の母。


本には、人生のどんな悩みの答えも書かれている。

「何千年も前から人間は生きていて、いろいろな経験をした素晴らしい人たちが本を書いています。だから今の私の悩みも、過去に同じように悩んで、乗り越えてきた人が必ずいるはずなんです。実際に、本に書かれた言葉に私は何度も救われてきました」

どのようなときに救われたのかを尋ねると、「いっぱいありすぎて答えに困る!」との返事が。その中でも特に本の力を感じたのは、自身の妹を亡くしたときだと話します。「当時、自分と同じ境遇について書かれた本を探しました。そうしたら、子どもを亡くした親についての本は、たくさんあったんです。でも、きょうだいが亡くなった話はどんなに探しても見つからなくて」

そんなときに出合ったのが、吉本ばななさんの短編小説『ムーンライト・シャドウ』でした。家にあった本をたまたま手に取ったら、そこに探していた答えが書かれていたというのです。「その小説は恋人が亡くなるお話だったのですが、それまで私が誰にも言えず、ただ漠然と抱えていた想いがすべて言語化してあるような気がしました。辛いのは私だけじゃない、同じような悲しみを抱えている人がこの世にいるとわかっただけで、救いになったんです。そのとき、私はもう少し生きていけるな、本はすごいなって思いました」


宝探しのように、答えを見つける。

2023年、古い洋館の一室に私設図書室「わたしの居場所」をオープン。自身が経験したように、本から解決の糸口を見つけてもらいたいという想いから、図書室の利用時にはある決まりごとがあるそうです。

「まず最初に、今知りたいことや悩んでいることを書き出してもらっています。書いたら、その答えが見つかるように祈りつつ、本を手に取ってもらう。そうすると、たまたま手に取った本ではあるのですが、はじめに紙に書いた悩みの答えとなるような一文が書かれていることがあるんです」

琴線に触れる一文に出会えたら、悩みを書いた紙に書き留めてもらいます。「言葉のお土産を持って帰ってもらいたいなと。言葉は、その人にとってお守りになるようなこともあると思うんですよね」と江角さん。「だから、宝探しのように本の中から自分だけの答えを見つけてもらいたいです」

現在、私設図書室はオンラインサロンメンバーのみ利用できます。一般公開に向けての準備も進めているそうです。


読書は寝る前と、隙間時間に。

江角さんの読書体験を聞くと本を読みたくなりますが、忙しい毎日の中で読書の時間をとるのはなかなか大変。江角さんは、どのように読書時間をつくっているのでしょうか。

「寝る前はいつも読んでます。あとは、常に本を持ち歩いています。読まずに持ち運んだだけで帰ってしまうことも多いのですが、それでも、電車での移動やちょっとした待ち時間など隙間時間に読めるように、いつもカバンに何かしらの本を入れています


好きな本もあれば、苦手な本もある。

もしかしたら、読書が続かない原因のひとつに、面白くなくて読み進められない、ということがあるかもしれません。江角さんに苦手なジャンルを聞いてみると、なんと、取材者が好きな作家の名前が。

「仲の良い友人もその作家さんのことが大好きで、『すっごく面白いよ!』と本を貸してくれたのですが、読まずに返しちゃったんですよね」

その友人とはすごく話が合うのに、本の趣味はあまり合わない。どろどろとした人間ドラマは好きだけれど、ファンタジーは雲をつかむようで私にはよくわからないんだなと思いました。面白いですよね」。そんな江角さんの好きな作家は、松本清張さん。「人間の裏側――行動だけではわからないような、人間が腹の底で思っている描写がとても好きなんです」

他にどのような本に惹かれるのか尋ねてみると、「その時々によって全然ちがう」とのこと。「今の私にとって気になるものは、全然変わってくる。それもまた面白いですね」

また「本は、最初から最後まで全部読む必要もない」と江角さんは話します。「本の中で一行でも心に響く言葉があれば、それでいいと思っています。たとえそのお話が、私にはつまらないなと思ったとしても、一言でも“この言葉に出合えて良かった”と思える言葉を見つけられたら、それでよしと思っています。だから好きなところから読み始めたり、最後から読んだり。これだと思う言葉に出合えたら、途中で終わってしまってもいいんじゃないかな」



お話を伺っていると、江角さんが実に軽やかに、気ままに読書を楽しんでいる様子が伝わってきました。本を一冊読み切ることを目標にするのではなく、悩みの答えを見つけるために本を読むのだと考えると、宝探しのようにワクワクしながら、自由に読書を楽しめそうです。答えが見つかりますようにと願いを込めてパラパラと本をめくれば、背中をそっと押してくれる素敵な言葉に出合える気がしてきたのでした。今、あなたの知りたいことは何ですか?


取材・執筆:Nekoja


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?