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みっともない執着がわたしを生かすこともある

香水を買った。
ムスクコレクションのブラックバニラ。

ロフトで散々探しまわって若干諦めかけていたところに突然あらわれた。甘いバニラの香りで、だけど甘すぎず大人っぽい落ち着きを兼ね備えた完全なる美だった。それまで嗅いできた爽やかタイプやフルーティでフェミニンな香りではなく、わたしのために存在してるんだと自惚れてしまうほどに優しく、それでいて勇気と安心を与えてくれる香りだった。
もうその時点で「まあこれで妥協するかな」とか考えていた候補はすっかり頭からとんで、これを買うしかない、待って高いんじゃ、あ、すごい3000円もしない、通販サイトでもおんなじ値段...ということは、ここでお持ち帰りしてもいいのでは?という流れで、私にしてはほとんど即決で購入していた。
バニラ系ムスクの香水は他のお店でも見かけたが、それでもトップからラストまでうっとりするようなスパイシーさを保っていたのはブラックバニラの方だった。先に見つけられて本当によかったと思う。

とりあえず帰ってからは「香水の付け方」「香水をつける部位」「就寝前の香水」など、ソファに寝転びながら飽きもせず調べつづけた。
手首を擦りあわせないこと、夏場はつよく匂いやすいこと、血管の通る場所につけるとよく香ることやTPOをしっかり守ることなど、たくさんの情報を一気に吸収した。
今もほんのりと香るバニラの香りにおもわず口角が上がってしまってかなわない。ぜったいに無駄な出費になってしまうと怖じ気づいていたけど、これはぜったいに思いきってよかったパターンだ。
わたしを守ってくれるものがまたひとつ増えたと考えれば、たいした出費でもないだろう。お薬代で毎月カツカツになってしまっているが、酒もたばこも控えて食事も減って、ままならない生活だってしているのだから、自分にはわからないところで帳尻があってるに違いない。
そもそもこれはもうわたしの香りなんだから、きっと忘れることだってできやしないだろう。
きっとこういうのを生活水準の向上とよび、そしてそのグレードを下げることができなくなるのは人として本当に抗えない部分なんだろう。
だって今こんなに満たされている。手放せる人なんか、もとからそれを知らない人くらいなものだろう。
知らない方がいいこともあるなんて、まさしくその通りすぎて笑うことすらできない。
まっさきに命を捨てたくてたまらなかった私を強引にでも繋ぎ止めてしまえる刺客がここであらわれたことは、きっと希望でもあるし、かなしみの種でもある。
正直なところこれからどうなるかわからないし、香水なんて贅沢してる余裕もなくなる日がくるかもしれないが、それでも「自分の命」のためではなく、「香水が好き」という感情にあらがえず、みっともなくも生き長らえてしまいそうな自分もいる。
執着をつくるというのはそういうことなのだろうか。
私をころして生かす存在が新たにできたということ、とりあえず今は無邪気に喜んでおきたい。

秩序もない散文だと30分内に1000字もゆうに越えられるということに複雑な感情を抱かざるをえない。
早いとこ睡眠薬をのんでお布団でごろごろしよう。
きっとバニラの香りがいい夢をみさせてくれるはず。

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