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高知の八彩帖(ヤイロチョウ)・番外編「躁と鬱②」

 かつてとある会社のサイトに連載していたショートエッセイです。今回のテーマは、「躁と鬱①」の続き。

躁状態の後は必ず鬱が来ます。波が大きいほど、激しい落ち込みが来るのです。躁鬱の予防には、「気分安定薬」を飲みます。波を抑える薬です。

 双極性障害は一生付き合って行く病気です。今は1日20数錠の薬を飲んでいます。薬の調節は難しいですが、良い主治医と巡り会えて、なんとか過ごしています。

 ジェットコースターの真上に来たら、あとは落ちるだけ。ものすごい重力には抗えず、真っ逆さまに落ちていく。自分の力ではどうにもならない、これが双極性障害の「うつ状態」。

 よく『うつ病?甘えとか怠けなんじゃないの?隣に1億円の札束置いた途端に治るんでしょ。』とかいう誤解や偏見があるんだが、甘いのはそっちの方だ。そもそもうつ状態に陥ったら、隣に置いてある1億円の札束にすらたどり着けない。

 鉛の鎖にがんじがらめにされ、さらにコールタールの沼に沈められているかの様に重く動かない身体。その上あらゆる箇所に痛みを感じる。目も開かない。呼吸するのがやっと。頭は灰色の綿が詰まったかのように朦朧とする。これがうつだ。

 少し上向きになると、今度は自分の些細な欠点を責めまくる。生きていたって仕方ない。いるだけで迷惑な人間なんだ。そんなことばかり頭に巡る。ここで考え方のクセをうまくコントロールして薬を服用すれば完治するのが、いわゆる「うつ病」。

 しかし私の「双極性障害」はうつ病と異なり、一生気分の波に翻弄されてしまう。波を穏やかにする薬をずっと飲み続けなければ、生活すらままならない。少しのストレスで容易に崩れてしまうため、毎日が綱渡りだ。

 大学在学中に発症したので、もう人生の半分を双極性障害と付き合っている。結局大学は中退した。貯金は失った。人は遠ざかって行った。仕事はできなくなった。

 それでも私は『今日はお風呂に入れた』『ひとりで買い物に行けた』という日常のささやかなことに喜びを感じながら生きている。

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