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紙幣印刷が経済を悪化させる理由を語るハビエル・ミレイ

アルゼンチン大統領にしてオーストリア学派の経済学者であるハビエル・ミレイ氏がMilken Instituteにおけるインタビューでインフレと紙幣印刷について語っている。




転落したアルゼンチン経済

ミレイ氏が大統領を務めるアルゼンチンはかつて経済大国だった。ミレイ氏は次のように語っている。

アルゼンチンは、1860年に自由主義的な憲法を採用してからたった35年で世界に名だたる大国となった。野蛮人の国からGDPがブラジル、メキシコ、パラグアイ、ペルーの合計よりも多い国となり、ラテンアメリカ諸国にある鉄道網の合計よりも巨大な鉄道網を有する国になった。

ブラジルはBRICSの一角であり、世界8位の経済大国だが、元々はアルゼンチンの方が大国だった。

しかし今やアルゼンチンはハイパーインフレと債務不履行の国として知られ、そうした社会的混乱のさなか経済学者のミレイ氏が大統領として選出された。

繁栄していたアルゼンチン経済に何が起きたのか。ミレイ氏は次のように説明している。

しかしこの絶頂の最中、アルゼンチンの指導者たちは手に入れた富をすべての人に分け与えるという善意の考えから、人々の限りない需要を政府が満たし続けるべきだという誤った社会正義の教義を実行し始めた。

アルゼンチンがハイパーインフレと通貨暴落を味わうようになったのは、際限のない政府支出と紙幣印刷が原因である。

政府支出は通常経済的に困っている人々を助けるという名目で行われる。だが日本でもガソリンへの補助金が消費者ではなく業者の懐に消えてゆくように、それはしばしば経済的に困っている人々のところへは届けられない。

だがミレイ氏はそもそも経済的に困っている人々を政府支出で助けるという考え方自体が国の経済に貧困をもたらすと主張する。

ミレイ氏は次のように述べている。

そうした考えに現実は味方していない。好む好まざるにかかわらず、人々の需要は無限で、資源は有限だ。

政府がいくらでも紙幣を印刷すれば経済問題は解決するという考え方がある。だが考えてほしいのだが、例えば国中のすべての人が紙幣を印刷する以外の仕事を辞めたらどうなるだろうか?

明らかに国民は紙幣以外のものを手にできなくなる。この程度の思考実験で明らかになる通り、経済の問題とは供給される商品とサービスの量の問題であり、流通する紙幣の量の問題ではないのである。



アルゼンチン経済の没落

このように、何でも政府が解決するという考え方を政治家と国民の両方が支持した結果、ミレイ氏によればアルゼンチンには次のようなことが起きた。

政府と経済に関するこうした考えの結果、政府支出は劇的に増加した。だから政府はまずアルゼンチン国民を税金で窒息させようとした。それで十分でなければアルゼンチンの黄金時代に蓄えた外貨準備を取り崩し始めた。アルゼンチンはデフォルトを繰り返し、誰もアルゼンチンにお金を貸してくれなくなった時、政府は無制限の紙幣印刷を開始した。

政府債務は何らかの形で返されなければならない。徴税か、紙幣印刷か、あるいはデフォルトである。

アルゼンチンはそれらすべてを経験した。上記のうち紙幣印刷に問題がないと主張したのがインフレ主義者やMMT論者たちだが、アメリカでは物価が高騰し、日本では通貨暴落が起きた。

日本では税率も有り得ないほど高い水準になっている。だが政府支出の恩恵は苦しむ国民とは別のところにだけ流れて行っている。


「先進的」なアルゼンチン経済

アルゼンチンは日本やアメリカの先を行っているという点で先進的である。そのアルゼンチンがどうなったかと言えば、ミレイ氏によれば次のようになった。

当然の結果として、アルゼンチン国民は構造的な貧困から逃れられなくなり、1人当たりGDPは世界140位にまで転落した。

税金の増加、通貨の下落、インフレ、そしてGDPの順位の凋落。まるで何処かの島国のようではないか。これでも自分の国はアルゼンチンとは違うと主張できるだろうか。

だからこそアルゼンチンの大統領であるミレイ氏は、西側諸国に同じ失敗をしないように語りかけているのである。

そのために必要なことは政府支出に依存しない自由な経済である。どういう商品やサービスが必要かを政府ではなく消費者が決める自由主義経済である。

だが政府支出を支持する人々には自由主義経済は敵視される。貧しい人々を助けないのかということである。

だがミレイ氏がダボス会議で言っていたように、自由主義経済による経済成長こそが世界人口の大半を貧困から救い、政府支出がもたらすインフレや通貨下落が貧困を増やしているのである。


自由主義経済を敵視する「倫理的な」人々

だからミレイ氏は、貧しい人々を助けるべきだと主張し、自由主義経済に反対する人々に次のように問いかける。

なぜ学者たちや国際機関、政治家たちは地球の人口の90%を酷い貧困から救った経済システムを敵視するのだろうか?なぜ西側諸国は歴史的に何度も失敗している実験にこだわり続けるのだろうか?

インフレ主義者たちはデフレが問題だと言う。だがなぜデフレになったのか? デフレとはものが売れない状態である。なぜ売れないのか? 政府支出によって消費者が欲しくもないものが大量に作られたからである。

何度も言うがインフレやデフレとは需要と供給の結果である。つまり現象の結果であり、現象そのものに善悪は存在しない。

海外の左派のように、政府支出によって貧しい人々を助けようとする人々に対して、ミレイ氏は次のように言っている。

自由市場では資本主義者が絶え間ない利益追求によってより良い商品やサービスをより安い価格で提供するようになっている。政府の介入を好む人々は、この市場の大切な役割を阻害するだけに留まらず、互いに自画自賛して社会正義のメダルを与え合い、最終的には共産主義に通じる価値観を推進して経済を酷い状態にする。

自由主義経済ならば、消費者が欲しくもないものは作られない。だがインフレ主義者たちは政府支出によって不要なものを経済にばら撒き、デフレを引き起こし、デフレを是正するために紙幣をばら撒いてインフレを引き起こす。

そういうことをしながら海外の左派たちは自分たちは財政支出で貧困層を救ったと主張する。日本はやや特殊である。日本では口実などなくとも政治家が好き放題やることを国民が認めるからである。

いずれにしてもそのようにして経済は沈んでゆく。それはまさに共産主義の最期と同じである。インフレ主義が本質的には共産主義と同じものである。

このプロセスで得をするのは政治家だけである。政治家(とそのばら撒きを受ける業者)だけは利益だけを得て罰せられることなく颯爽と去ってゆく。

政治的予算には常に綺麗な名目と本当の受益者が存在する。少々頭の足りない人々は綺麗な名目に騙されてしまう。問題は、有権者のほとんどがそういう人々だということである。

そろそろ本当の自由主義を思い出すべきなのではないか。


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