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ヒモ

「何時に帰ってくる?」

猫撫で声が我ながら情けない。

彼女がパンプスに足先を入れるのをベッドから眺めていた。玄関まで見送りにいくこともせず俺はいったい何をしているのか。

「んーいつも通りかな。なんか買ってくる?」

そんな俺に彼女はいつも通り優しい。

「いや、なんか作ろうかな?」

思い付きで言うと、彼女の顔がほころぶのが見えた。

「ほんと? 助かる」

「何がいい?」

「なんでもいい」

そう言ってせっかく履いたパンプスを脱いでこっちに向かってくる。

財布から札を取り出してテーブルに置くのが見えた。

「お金ここ置いとくからよろしくね」

「いいのに」

「何言ってんの。どうせないんでしょ?」

「ごめん」

「先行投資だから。売れたらお世話よろしく」

「おう」

力のない返事に彼女が笑う。

行ってきます、そう言って彼女は仕事に向かった。

部屋中を覆う情けない空気から自分を守るように俺はもう一度布団に包まった。


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