2018年出版 光文社新書 962 920円
前回㊤では、地球の土壌や腐植の仕組みについてのお話でした。著者の藤井一至氏は1981年富山県生まれ、カナダの永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界各地、日本の津々浦々を飛び回り、土の成り立ちと持続的な利用方法を研究しています。
学者先生と言えばずっと机に向かい難しい論文を書いているイメージですが、スコップ片手に飛び回るフットワークの軽さに驚きます。その姿勢はどこから来ているのでしょう?
「100億人を養う土壌を求めて」
サブタイトルの語句ですが、具体的にはどういうことでしょう。
著者が農家の長男であることの影響があったのか、少年でありながら世界の食料を心配し、進路をエジプト考古学から土の研究者へと変更しました。人口爆発、食糧危機、砂漠化など危機をあおる言葉に怯えるだけになりがちなのに、立ち向かおうとするその勇気に頭が下がります。そして、ここを出発点かつゴールとして、土の研究を始めたのだそうです。
植物工場で100億人 養えるか
けれども、土でなくても、今では水耕栽培や植物工場などがあると疑問が浮かぶかもしれません。実際はどうでしょう?
という事なら、植物工場の方が良さそう…
そう、地球上では飢餓と飽食が確かに同居しています。そして著者は土の魅力を語ります。「露地栽培では植物工場ほど肥料を必要としない」。さらに植物が栄養分を摂取する仕組みへと考察し、肥沃な土を探っていきます。
読んでいて私も混乱します。は、ミミズや植物の気持ち…?長年の研究により培われた洞察力でしょう。専門家のすごみを感じる文です。
12種類の土
「12種類の土、すべてを見たい。土を研究するものにしか理解できない夢だ。」と、著者は12の土を巡る旅を始めました。それは、永久凍土、砂漠土、チェルノーゼム(黒土)、ポドソル、未熟土、若手土壌、粘土集積土壌、強風化赤黄色土、泥炭土、ひび割れ粘土質土壌、黒ぼく土、オキシソル。
土を探す旅はユニークな体験ばかり、ここは本を手に取って読んでほしいところです。
「だが、作物のタネのように、土を運ぶことも増やすこともできない。多くの人を養うためにはよい土が広い面積あり、水も適した作物も必要である。トラクターも肥料も農薬もお金が要る」と、課題は山積みのようです。
土壌改良の事例
そして、スコップ一本からの土壌改良に挑みます。インドネシア熱帯雨林での事例です。大がかりな投資ではないところに、優しさを感じます。
思わず拍手したくなりました。足元をよく観察し知識を持てば、良いアイデアがうまれる可能性と希望がある。困ったことがあると、つい遠くばかり探しがちですが、土に限らず全てのことに言えそうな気がします。
日本の土
日本の土は必ずしも肥沃とは言えずそれなりの問題があり、注意深く手をかけないと連作障害も起きるし、一見のどかな農場は農家が守る戦場なのだそうです。けれど、水田土壌は不思議なくらい優れているようです。
そして、この優れた稲作は雪解け水を始め豊かな水により、支えられてきたそうです。(稲作がアジアに多い理由でもあるそうです。)
SATOYAMA
専門家の集う学会では、海外でもSATOYAMAで通じるのだとか。里山の資源利用は幅広く、柴刈りで集めた草葉や小枝は燃料にするだけでなく、田んぼの土に混ぜて肥やし(刈敷)にも利用したとか。
里山を身近に聞いたことはないので、分かりずらい所です。けれど、桃太郎の話は、里山の資源利用の例だとか。今も活用の余地が残っていそうです。
感 想
読み応えのある本でした。身近なのに、ここまで無知であった自分に驚きました。紹介できなかったのですが、文明の発展.戦争.人口にも土壌は関係しているようです。とても興味深い内容です。
近頃は消毒殺菌ブームで、人は滅菌環境に暮らすべきかと錯覚しそうです。けれど、「さまざまな生態系のつながり、生き物の結びつきを活かせば」の対象を土から人に置き換えて考えれば、そう良好な環境ではなさそうです。生きることは食べることなのですから、自然や先人が築いてくれた土壌という足元(原点)から発想する姿勢を少しでも持ちたいと思います。
『土 地球最後のナゾ』から文章や図を多数引用させていただきました。藤井一至様、誠に有難うございました。そして、「100億人を養う土壌を求めて」が少しづつでも実現することを願っています。