オシムとミシャの言葉から考える「ポリバレント」の誤用について
最近、コンサドーレを応援している方々は「ポリバレント」という言葉を耳にする機会が増えたのではないだろうか。
ポリバレントは、日本では一般に「複数のポジションができる」といったニュアンスで使われている気がしている。たしかにコンサドーレ周辺でも菅が左CBをやったり、青木がボランチをやったり、荒野が1トップをやったりする際によく聞くワードである。
そういえば、かつてコンサドーレで三好が急にスクランブルでボランチ起用されて肝を冷やしたことがあった。あれはさすがにポリバレントとは言われなかったが。
僕もかつては「複数ポジションができる」という意味でポリバレントをとらえていた。
だがその使い方、違います。ということを今回は書いていきたい。
ポリバレントは「めっちゃできる」選手
コンサドーレの監督をつとめるのは、ミハイロ・ペトロヴィッチ(以下ミシャ)だ。日本のメディアでミシャの師匠格と評されているのがイビツァ・オシムである。
たしかにミシャは現役時代、オシムのもとでプレーしているが、果たして本当に師匠格だったのかはよくわからない。ただ、これは本題ではないので脇に置いておこう。
オシムはインタビューでポリバレントについてこのように語っている。ポリバレントではなく、ポリバレンスという言葉になっている箇所もあるがニュアンスは一緒なので気にしないでほしい。
オシムの考えるポリバレント(な選手)をざっくりまとめてみると、以下の5点になる。
(1)走力が最高レベル
(2)フィジカルが最高レベル
(3)テクニカルが最高レベル
(4)あらゆるシチュエーションに対応できるメンタル
(5)どのポジションもできる
これって要するに「オールラウンドにすべての能力が高い」選手ということではないだろうか。六角形のグラフが全部ぱつぱつの選手だ。
平たく言えば、オシムの言うポリバレントとは「めっちゃできる」こと。ポジションがこなせることが主眼ではなく能力の高さを示している。
「複数ポジションができる」は結果ではなく手段
ミシャも今季のキャンプ前にポリバレントに関連して、次のようにインタビューで答えている。
先ほどのオシムの言葉をふまえて、ミシャの発言を読むと受け取り方が変わるのではないだろうか。
一見、ポリバレントに関してミシャの言葉で重要そうなのは「FWの選手が中盤になったり、中盤の選手がDFになったり、DFの選手がFWになったり。より選手が流動的に、どこでもできるようにもっていきたい。」というところだろう。
しかしミシャの発言の本旨は「攻撃的な選手がストッパーをやったら守備の能力が上がるだろうし、守備の選手が攻撃的なポジションをやったら攻撃の能力が上がるだろう。そうした選手の能力を高めていくような試みをしていきたい」という言葉にあることが、オシムの言葉をふまえて読むと理解できるだろう。
「ポリバレント性を増す」ということは、選手の能力を高めるということ。それも、攻撃的選手は守備能力を上げ、守備的選手は攻撃能力を上げることで能力がバランスよく高い選手を育てることである。そのために複数ポジションをやってもらい、バランスよく能力を上げていくのだ。
すなわち「複数ポジションができる」ことは、ポリバレントになることではない。ポリバレントになるための手段の一つなのだ。
カタカナ用語に振り回されてはいけない
ここまで見たように「ポリバレント」は簡単に言えば「能力のすごく高い」という意味合いでしかない。能力が高ければ、試合に勝てるようになり、成績もあがる。当たり前の話を言っているだけなのである。
だから何も特別なことではないし、特別な用語でもない。ミシャはただ選手の実力を上げようとしているだけに過ぎない。そのための手段として、たまたまミシャは選手にいろんなポジションを経験させているだけなのだ。