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妄想からはじめる「自分の言葉」の作り方―三宅香帆『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』


1.誰のものでもない「自分の言葉」で書くための文章術

文章術の本は毎年のように新しいものが出てきてはヒットしたり、やっぱりこっちがいいと昔から読まれてる老舗本が脚光をあびている。

この手の本が教えてくれることは大きく2つである。書きたいことを見つける方法と、文章を書く技術だ。

今回紹介する本も基本はその形式にのっとっている。しかし著者の三宅さんが掲げる目標設定に特徴がある。

彼女は「自分の言葉をつくって伝える」に非常にこだわっている。SNSなどで他人や周囲が言ってる言葉や「考えさせられる」などのありきたりな言葉(クリシェ)ではなく、自分の思いを自分だけの言葉にして表現するのだ。

自分の感情や考えを細かくみていくことで自分の言葉を作り表現する。彼女が教える文章術とはその方法なのだ。

僕も自分が使った言葉を見て「うわあ、これ誰かが言ってた言葉をそのまま我がものにして使ってるなあ……」や「『考えさせられる』や『興味深い』でごまかしてるなあ……」と思うことがある。他者の言葉をみて「これって以前違う人が言ってた意見とほぼ一語一句変わらないよな……」と感じることもだ。

自分も心当たりあるなと思う人はぜひ手に取ってほしい。現代はSNSの広まりもあって他人の言葉が昔よりも目に入りやすい時代である。他人の言葉に自分が乗っ取られる可能性が高くなった。この本はそんな時代ならではの処方箋となる。

2.妄想をこねくり回して自分の好きと違う世界を関連づける

「妄想力で思考をこねくり回す」という言葉にびびっときて共感した。

三宅さんは感想を書くうえで必要な能力に「妄想力」をあげている。自分の考えを膨らませる能力のことだ。

ではどうやって膨らませるのか。僕が思うにそれは「関連づけ」だ。

三宅さんは作品が「よかった」理由を考える際に、昔見たものや昔好きだった推しを引っ張り出しつつ妄想を広げることをすすめている。彼女自身、本を読んだときに過去読んだ本を思い出して「あの本とこの本は似てる気がする」と思うことがあるそうだ。

今の自分の感覚と過去に見たり読んだり感じたことを並べて「どう似てるかな?どう違うかな?」と関連づける。妄想を膨らませる第一歩だ。

僕は例えば「サッカーと日本史」といった異なるジャンルの事柄を関連づけて考えることが大好きだ。その関連づけの起点に根拠はない。まず妄想からはじまっている。妄想で出てきたものに対して、みんなに納得してもらう根拠はないかなと探していくのだ。

関連づけで妄想を膨らましていくと、自分の興味ある分野がありあらゆる世界と絡めて思考できる。妄想は時間もジャンルも越境するのだ。

3.書くことをちょっとがんばりたくなる真っすぐな思い

この本を手にとったとき、非常にポップなタイトルと表紙だなと感じた。しかし内容はポップさとは裏腹にハードな感じを受けた。

三宅さんは分かりやすく読みやすく指南してくれる。それを前提としても「自分の言葉をつくって表現する」ことがかなりハードな試みである。自分の感情は細かく細かく分解していく必要があるし、そもそも文章を書くこと自体慣れないと大変だ。しんどいのに本には「文章=何度も書き直すもの」と書いてある。

でも彼女の文章を読むと「ちょっとがんばってみますか〜」と思えてくる。久しぶりに自炊がしたくなる料理本や、ちょっとその場でスクワットしたくなるような筋トレ本のようだ。

「書くことが人生を豊かにする」なんて言われたりするが、三宅さんは自分の言葉で書くことで「好きを愛する」あなたの人生になぜ大切なのか、人生がどう彩られるかを丁寧に書いている。その真っすぐさが好きだ。おそらく彼女の周りに何かを好きであるがゆえに悩んだり、好きを諦めた人たちがいたのではないだろうか。

文章を書くテクニックがたくさん細かく書いているわけでは決してない。だが、自分の気持ちを言葉にしたいと思う人はこの本を読んで自分の言葉を作り出す勇気をきっと持つことができるはずだ。

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