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共感性が悪さをしている


共感性が生まれたのは、いつ頃だろうか。

共感性は人間以外の生物にも見られるし、チンパンジーが仲間の死を悼んだり、ゴリラは目を合わせてコミュニケーションをとったりする。

だけど、ここまで高い共感性は人間特有のものだと思う。
そして、人間の高い共感性のキーは、共同保育だ。
体の発達が遅い人間の子供を共同で育てるようになったことが、人間の家族・社会構成の肝だと言われている。

高い共感性によってより大きなコミュニティを作り、自然界と人間の競合社会を生き残ってきた。

最近になって、ビーガンやうつ病が増えているのは、大きな争いがなくなったことによって、共感性の頭打ちがなくなったからかもしれない。


通信機器の発達やインターネットの登場で、身体から切り離されて脳だけでつながるようになった。それで社会の範囲が広がったわけだけど、まだ脳だけでつながる歴史はそう長くないから、信頼関係や共感というものを脳だけでは得られていない。一緒に何かした「経験」がないと信頼関係がつくれないから、そのギャップに苦しんでいるというのがいまの状態でしょう。

(中略)

しかも、もともと経済は社会を豊かにするために生まれたのに、経済を右肩上がりにするために個人の欲望を発散・充足させることを目的とした資本主義経済が加速しすぎた。それによって、みんな「社会」を忘れてしまいました。

山極壽一さんのインタビューでこう語られている。

インターネットによってより大きな社会を人は認識するようになった。

山極さんは、脳だけで共感はできないと言っているけれど、最近のネットを見ていると、文字だけで共感性を得られる人が増えているように感じる。

そして、肥大した共感性と忘れられてしまった「社会」によって、自尊心や自己愛というものがうまく満たされないようになってしまった中、児童虐待や差別、痴漢などの社会問題が浮き彫りになってきたのではないだろうか。

「社会」を再建すること、行き過ぎた資本主義経済を見直すこと、これらはこれからの社会を考える上で必要なことだと思う。


一方で、これは共感性そのものが悪いのではなくて、共感性が自尊心の欠落に結びついてしまう状況が悪いのかもしれない、とも思う。

共感性とは本来、自分とは性質が異なる他人と共に過ごすために生まれたものだ。
しかし、行き過ぎた共感性は、時に自己愛に大きな影響を与えてしまう。

ビーガンなんかの事例は、人の共感性が他動物にまで広がったものだと思うのだけれど、人間は生きている限り確実に人を傷つけるし、なんらかの形で殺生を行ったりする。
共感性が優位に働くと、その一回一回に多大なストレスを抱えることになる。

また、「社会」が忘れられてしまったことにより、人間性が無視され、ストレスの総和が膨れ上がり、そのストレスの所為で、共感性を武器に他人を傷つけてしまったりする。

共感性が自己愛を欠落させ、欠落した自己愛によって共感性が武器となってしまう悪循環。

今の社会では、確実に共感性が悪さをしている。


「社会」は本来小さなものでなくてはいけない。少なくとも、現時点での「人間」にとっては。
それは、ある程度の多様性を含んだ社会では、大きくなりすぎると、多様性が引き起こす摩擦のおかげでトラブルが起きやすいからだ。

もう一つ、社会の密度を低くする方法もあるのだけど、共同保育を軸とする「社会」を考えた場合、密度は低くなりすぎるといけないので、社会は小さくするのが一番だろう。

と、ここで、最近(もう少し前からだけど)シェアハウスが流行りになっている現象に目がいく。

シェアハウス界隈では、ただ単に似たような人と住むだけではなくて、お年寄りから子供まで、さまざまな人が暮らすシェアハウスというものが出てきた。

こういったシェアハウスは、まさに「小さな社会」の体現ではないだろうか。
ここに「里親」などの要素も入ると、とてもおもしろい場所になると思う。(興味がある人、メッセください。話しましょう)


大きな社会コストがかかる「争い」というものが大幅に減少した現代、また新しい形での社会構築が必要になってきている。

そんな現代に生まれた私としては、より多くの人が、より健康的に生きられる社会ができるといいなぁと思っている。

それは、ただ単に、生産性と文明の発展速度の増大を狙ってのものだったり、過去の経験によるこの問題への過剰な共感だったりするわけだけど、新しい社会構築が進んだ未来では、人間はどう生きるのか、想像するのはとても楽しい。

だからこそ、時間ができると、ふと、社会のことについて考えてしまうのだろう。

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