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そろそろ「猫のまにまに」について話そうと<後>

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フリーペーパーを狭くて暗い立ち飲み屋に置き始めた理由

 当時の私は、ライター職を休業して葬儀屋でアルバイトをしていた。ライターになって6年目、心身の調子をくずしてしまい、ライターとして取材したり原稿を書いたりができなくなってしまったのだ。

 原因はよくわからない。ただまあ、必要な時間だったのだろう。書くことをやめて、ひたすら頭と体を動かし影ながら人を支えることに没頭するという時間が。同僚からはしばらく「潜入レポだ」と怪しまれていたけれど。

 お通夜が夕方からはじまって、通夜ぶるまいがあって片づけて帰るのがだいたい21時くらい。職場はヒグラシ文庫に近かったので、よく帰りがけに立ち寄っていた。得難い経験だったと思う。

 そして、書くことから離れているうちに、今度はどうしても何かを書かずにいられなくなった。そしてそれはSNSでつぶやいたりブログに書き綴ったりするのではなく、紙に印刷するフリーペーパーという形にしたかった。

 それをヒグラシ文庫に置こうという発想は、ごく自然に湧いていた。
 たぶん、店に置かれたフリーペーパーのイメージは、学生時代によく足を運んでいた、アジア直輸入衣料雑貨店「元祖仲屋むげん堂」のそれが一番古いと思う。
 細かくびっしり書かれた「むげん堂通信」は、毎号楽しみだった。今も変わらず発行されているようで嬉しい。

 ただ、私はヒグラシ文庫のスタッフではなく、あくまでただの客だ。フリーペーパーも店とはなんの関係もない。客が勝手にフリーペーパーをつくって勝手に置いていく、それがOKなのは、日ごろからイベントのフライヤーやポスターが店に持ち込まれていたのが大きい。そういう店だ。

 「猫のまにまに」はおかげさまで評判は悪くなく、置くそばから持ってってもらえたので、コピー製本での補充はやがて限界を感じるようになった。それで3号くらい出してからはネット印刷に発注して製本する形にかえた。

「猫のまにまに」の発行を重ねておきた変化

 何号から出すうち、「自分も『猫のまにまに』に寄稿したい」という酔客が現れた。ヒグラシ文庫のカウンターは、編集者とか、元新聞記者とか、アートディレクターやフォトグラファーが自然と集まる場所だった。とかいうと何やら文化的なサロンみたいにきこえるが、立ち飲み屋のレモンサワーの前ではひとしくただの酔っ払いである。

 でもまあ面白そうなので、「猫のまにまに」の別冊という体裁で新たなレーベルができた。それが「そのヒグラシ」だ。ヒグラシ文庫がきっかけで誕生したが、これもあくまで客が遊びで作っているフリーペーパーで、店とは関係ない。タイトルもたまたま。

創刊号

 フォトグラファーもアートディレクターも現役プロフェッショナルが本気で作りこむので毎回クオリティがえげつなかった。

 個人的には、いつのまにか元の体調を取り戻していて、はれて某都内企業に常駐する社内ライターとして転職が決まった。

 そして、このなんとも贅沢な遊びは、コロナ禍で人と人が濃厚接触できなくなるまで不定期に続いた。

コロナ禍をへて、次のフェーズへ

 ありがたいことに、「そのヒグラシ」の新刊を心待ちにしているというお声をいただくこともある。ただ、少なくとも、これまでの体裁の「そのヒグラシ」を発行することはもうない。

 一緒に作ってきた酔友たちが、ひょいと向こう岸へわたってしまった。彼らの存在なしに「そのヒグラシ」を作ることはできないし、作ったとしてもそれは別モノだ。

 ただ「猫のまにまに」は、もともと一人で「気まぐれな猫のように、心のおもむくままに」をコンセプトにつくっていたフリーペーパーだ。
 そう、ここにきてやっとタイトルについてふれることができた。

 2021年には、暗渠愛好家の猫綱氏とダブルネームでZINEも発行した。

定価500円

 猫かぶり(?)は偶然だが、10年来くらいつきあいのある間柄なので面白い出来になった。続編の含みももたせているので、いずれは。

 今週末(2024年4月20日)のヒグラシ文庫一箱古本市にも、「猫のまにまに」別冊の形で『随感録』の抜粋版を並べる予定。


久々のコピー製本で原点回帰

 というわけで思いのほか長くなったし最後はまた宣伝に戻りましたが、今週末、ヒグラシ文庫一箱古本市にきてください! 鎌倉・大船両店で12時~16時まで開催します。

 言い忘れてたけどヒグラシ文庫は鎌倉と大船にあります。別の店のように雰囲気が違うところも楽しんでいただければ。 

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