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バクラウ 地図から消された村

Bacurau (2019)
映画『バクラウ 地図から消された村』公式サイト

※今回、ネタバレを含みます。まだ見ていない方はご注意ください。

  クレベール・メンドンサ・フィリオとジュリアーノ・ドルネレスの共同監督によるバイオレンス・スリラー映画。予告編を見ると、サム・ペキンパー風のドンパチになぜか小型UFOが出現、これはきっとヤバイ映画だと期待して映画館で見てきました。英語版Wikipediaは、カテゴリーを『Weird Western film』としています。西部劇をベースに、ホラーやSF、ファンタジーなどの要素を盛り込んだ、要はゲテモノ西部劇ということでしょうか。例として「エル・トポ」や「ワイルド・ワイルド・ウエスト」「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」なんかが挙げられていますが、本作の舞台は現代のブラジルで、後述しますが現代劇にウエスタンのプロットを軽く当てはめた体の映画となっています。

 ブッ飛んだ映画を期待したのですが、見ているうちに期待のハードルをどんどん下げなければなりませんでした。結果的に期待外れではあったのですが、それは私の期待が妄想に近いものだったからで、「そんな訳ねえだろ、現実みろよ」と諭されながら最後まで見ると、意外にそれなり以上の充実感が得られる、面白ヤバイ作品でした。例を挙げれば、私が飛びついた小型UFOは結局マイケル(ウド・キア)を中心とする米国人グループが飛ばすドローンだった訳ですが、確かに「なあんだ」と思わされはしたものの、実際のストーリーにはがっちり引き込まれているという具合。期待がはずれても面白いんですよ。

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 若い女性テレサが祖母カルメリータの葬式のためにバクラウ村に帰省するところから映画は始まり、序盤は村の様子の描写に費やされます。人口もそんなに少なくなく、子供もそれなりにいる。基本的にのどかなのでだいぶ眠気も催しますが、ところどころ「?」な要素がある。帰省したテレサが服用させられる丸薬。カルメリータの葬式で取り乱すドミンガス(ソニア・ブラガ)。何か秘密のありそうなパコッチまたの名をアカシオ。水源を巡っての村と市長との対立。皆殺しにされた農場一家。情報遮断。銃撃された給水車。ツーリングと言いながらモトクロスジャージで大した荷物も持たないバイクの2人組。妙におススメされる歴史博物館……。

 主人公はテレサでもドミンガスでもパコッチでもルンガでもなく、村人全員、村そのものです。暮らしはあまり豊かではなさそうで、水源を市長に抑えられているばかりに給水に頼らなければならなかったりする半面、インターネット環境は整っているし、村人の多くはケータイやバイクを所有しています。そんな村と、市長に雇われたマンハンター・グループとの死闘を最終的に描くのですが、それが判明するまでに想像を逞しくする観客を、この映画はなかなか放してくれません。そこが大変見事だな、と感じました。ジョン・カーペンターの「Night」をバックにしたカポエイラのシーンを境にストーリーが一気に加速、第二形態とばかりに自衛のため狂戦士化する村のアナザーサイドが発現します。

 マンハンター・グループは、マイケル以外はシロートの集まりであることが一目瞭然です。村人を射殺したバイクの2人をまるでギャングみたいにハチの巣にするシーンでも判りますが、2マン・セルで村を襲撃する手際はさらにひどい。サバゲーマーのほうがはるかに優秀でしょう。(笑) なので、なぜか全裸で植物の世話をするおじいちゃんにさえ簡単に頭を吹き飛ばされてしまいます。表に人影(敵)がみえないのに、1人でのこのこ歴史博物館に入っていく奴も考えられない。案の定、こいつも軽くぶち殺されます。マイケルだけは狙撃ポイントを定めて棺桶を届けに来た業者や犬、グループの仲間すら的確に射殺していきますが、「俺の土地で何やってんだオメー」と簡単にバックを取られます。

 黒幕であることが判明した市長は、後ろ手に縛られてお面を被せられた挙句、ロバに乗せられて荒野に放たれます。これ、ウエスタンで見たことありますよね。悪辣な権力者がアウトローを雇って善良な村人を虐げる構図も、ウエスタンそのものだと気づきます。予告編なんかでセルジオ・レオーネの名前が出てくる所以ですが、容赦のない暴力表現はやはりペキンパーっぽいです。レオーネって、どちらかと言えば牧歌的・抒情的な映像作家ですから。(ペキンパーも抒情性は多分に持ち合わせていますけども) 本作がひねってあるのは、善良な村人に凄腕の流れ者が着かない……と言うか、必要ないところです。

 現代ブラジル社会への風刺、みたいな評もありますが、私には何とも言えません。ただ思うに、自衛のための闘いって最初から生きるか死ぬかなんですよね。勝って敵を駆逐できなければ侵略されちゃうんで、そうしたら全員死んだほうが断然まし。自衛闘争には武力はもとより、「絶対勝つ、死んでも勝つ」という凄まじい精神力(本作の謎の丸薬が支えているのはそれでじゃないかと思います)が必要になるはずです。自衛のための闘いしか許されていない私達日本人も、70数年前にそれを体験しているはずなのですが、その覚悟が現在あるとは、とてもじゃないけど思えませんよねえ。

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