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バンパイア・ラヴァーズ

The Vampire Lovers (1970)

 英国産怪奇映画の名門ハマー・フィルム制作、ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュの古典「カーミラ」を原作とする女吸血鬼もの。
 「荒鷲の要塞」での演技が評価されたイングリット・ピットが、吸血鬼マルシーラ/カーミラ/ミルカーラ・カルンシュタインを妖しく演じます。
 監督は「SOSタイタニック」のロイ・ウォード・ベイカー。

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 ピット演じる吸血鬼ミルカーラは、名前を変えて将軍の姪ローラ(ピッパ・スティール)、英国人の娘エマ(マデリン・スミス)とその家庭教師マドモワゼル・ペロド(ケイト・オマーラ)をその牙にかけていきます。エマの父モートン氏(ジョージ・コール)や医者(ファーディ・メイン)もミルカーラは殺しますが、男はただただ邪魔な存在に過ぎず、美女/美少女を愛情をもって吸血し、死に至らしめるのが彼女のタスク。

 ゆえに、ミルカーラと犠牲者の間にはレズビアン関係が築かれます。(そもそも原作がそう) ヌード・シーンも多く、ハマーにしてはエロティック路線に大きく踏み込んだ異色の作品となっていますが、絵はあくまでゴシック調で、怪奇映画の名門としての風格を保っています。制作者がウヒヒヒと搾取的にお色気シーンを盛り込んだのではないかと疑いたくもなりますが、後年のピットのインタビューによればそのようなことはなかったようで、スミスとの絡みもクローズド・セットで撮影されたそうです。またピットは、自身のヌードが記録されていることについて、「若い頃の美しい裸は誇れるものだから、孫にも胸を張って見せられる」と、何とも男前な発言を残しています。

 そんなピットの体当たりの演技は素晴らしく、本作は彼女の代表作となりました。クールで妖しげな彼女に対し、目がきょろんっと大きなスミスは無邪気であどけなく、お人形さんみたい。こんなイノセントな娘なら、そりゃ吸血鬼に籠絡もされるよね~という説得力があり、いいコンビネーションを生んでいます。

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 ローラの叔父スピルスドルフ将軍を演じるのは、「スター・ウォーズ」のグランド・モフ・ウィルハフ・ターキンでお馴染み、怪奇映画スターのピーター・カッシング。も~~う出てくるだけでビシーッと絵が締まりますよねえ……。この人の貫録は何なんだろう、どっから湧いてくるんだろう。ローラが死に、ミルカーラのターゲットがエマに移ると出番がなくなっちゃうのが寂しいですが、ラストはしっかりキメてくれます。

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 原作では、エマに当たる人物の名前がローラだったりといった違いはあるのですが、概ね原作を忠実に映画化しています。その弊害というほどでもないですが、伯爵夫人(ドーン・アダムス)や黒衣の男(ジョン・フォーブス・ロバートソン)の立ち位置がやや不鮮明。まあ黒衣の男については、こいつが吸血鬼一族の長なんだろうな、という推測が働く余地は大いにありますし、ハマー・フィルム最後の作品「ドラゴン vs 7人の吸血鬼」でドラキュラ伯爵を演じているのがロバートソンだったりするんですけど。

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