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ライター・ユウの出生届 ~はじめての命名作業~

0.まえがき(連載半年記念によせて)

季節は秋へと移り変わり、気づけば10月になりました。どうもこんにちは、ユウです。


昨月に引き続き、今月も(ライター陣では)最初の記事を任せて頂きました。記事の執筆を始めて、はや半年となりますが、このように「1番」という好打順で試合に出して頂けること、大変光栄に感じております。


「1番打者」といえば、イチロー選手(元シアトル・マリナーズなど)、松井稼頭央選手(元西武ライオンズなど)、青木宣親選手(ヤクルトスワローズ)など、華がある、派手な選手の顔が浮かぶものです。

しかし私には、「安打製造機としてチャンスを演出する」「盗塁がとても上手い」「走・攻・守すべてにおいて高いレベルにある」などの、分かりやすい「華」がありません。小技と粘りでなんとか生き残っている、言わば7番打者タイプである私が、こんな花形を任されてよいものなのでしょうか……?


とはいえ、数多くのライターさんがおられる中で、こんないい打順を頂いているのです。ヒットは打てないまでも、なんとかして塁に出る努力だけは負けないようにします。

私には「華」はないですが、いろんなことを「そこそこ」こなせる「小」器用さとできる範囲で手堅い仕事をする安定感を武器にすれば、それなりに戦える気がします。


派手さはないが器用さと粘り強さを持ち合わせた……言わばOWL magazineの福田周平(オリックス・バファローズ)のような選手を目指して、まずはスタメンで引き続き使って頂けるよう、今後ともマイペースに研鑽していく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

(注:筆者は糸井選手が加入した頃からのオリックスファンです。)


1.「ノーブランド品」からの脱却に向けて

話が横滑りしました。さて今回は、「命名」にまつわるお話です。

最近、「ライター」の肩書きを名乗ることにも慣れてきた私は、このような悩みを抱えています。


「対価を頂くに値すべきライターになるためには、一体どうすればよいのか?」


私には、これといって目を引くような経歴、経験、肩書きなどがありません。例えば、「海外のサッカークラブでプレーした経験がある」「好きなことを活かして起業した」「職業作家として音楽で生計を立てている」など、「自分はこういう人物だ!」という、目を引く「ラベル」を、私は持っていないのです。


私の文章は、言わば「ノーブランドの服」のようなもの。服の縫製やデザインを評価して頂けることは嬉しいのですが、それなりのお金を出して買って頂くためには、足りない部分が数多くあると感じております。


「餅は餅屋」ではないですが、ライター業の悩みはライター業に相談するのが吉というもの。サッカーライター・宇都宮徹壱さんとお話しさせて頂いた折に、この悩みについて相談してみました。

【宇都宮徹壱さんプロフィール】
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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世の中に存在する「特別な価値」を持っている品物のほとんどには、固有の名前がついています。名前を付けることが、その品物を「ブランド」にする第一歩である。そう宇都宮さんは仰るのです。

そして私のプロ化に向けた第一歩として、「ハンドルネームからの脱却」を進言頂きました。つまり「ペンネームを付けなさい」ということです


実は私も、かねてからペンネームをつけたいという思いはありました。今はハンドルネームの延長線上である「ユウ」という名前で執筆していますが、これから活動範囲を広げていくためには、より「本気度」のある名前をつけたい。そう思っていたのです。

また、自分のことを「ユウ」と、下の名前に準ずる呼称で呼ぶことに対し、年齢を重ねるにつれ、抵抗が生まれてきていたのも事実でした。


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しかしながら、なかなか名付けに踏み切れない理由もありました。


まず、「なんだか気恥ずかしい」のです。

ペンネームをつけるということは、自分のセンスが屋号として凝縮され、露わになるということです。これから先、長くて30年~40年付き合っていくことになる名前です。その場の直感に任せるのではなく、なるべく慎重に考えた、理由のある命名でないと、自分のセンスを露わにする「気恥ずかしさ」を、乗り越えられないような気がしていたのです。


そして、「名前は一生ものである」こと

例えば、「ENDRECHERI」「ENDRECHERI☆ENDRECHERI」「244ENDLI-x」「剛 紫」。これはすべてKinki Kids・堂本剛さんのソロ活動における別名義です。これらの名前を聞いて、すぐに堂本剛さんを連想される方は、そう多くはないでしょう。

堂本さんの場合は、Kinki Kidsとしての活動とソロ活動の間に一線を引くため、あえて名義を変えているという事情はありますが、ジャニーズ事務所のエースでさえ、名義が複数にわたると、認知度が落ちてしまうのです。まして私のような素人が認知を得るためには、そうやすやすと屋号は変えられません。


これらの思いが、私にペンネームの命名を躊躇わせていました。


しかし、私もライター業を始めて半年。今では「文章を書く」ということは、間違いなく自分のアイデンティティの一部となりつつあります。
「文筆を長く続ける」その覚悟を示すために、「命名」という行為を行うには、いいタイミングなのかもしれません。


そこで今回は、私が日頃お世話になっている「本名ではない名前を使って活動されている方」にお話を伺い、皆さんの名前の由来、名づけのきっかけなどを取材して参りました。

そして、聞いた話を参考に、自分の新たな屋号・ブランドとなる、ペンネームを決定しました。



2.先人に学ぶ~名づけの由来を聞いてみた~

今回の記事の執筆にあたり、日ごろお世話になっている以下の皆様に、取材のご協力を頂きました。ご協力頂いた皆様、大変ありがとうございました。

(プロフィールと一緒に活動内容のリンクなどを記載しているので、ご興味のある方はクリックして頂けますと幸いです。)

【今回ご協力いただいた皆様(五十音順)】
・葦田 不見さん(詩人)
・伊東 黒雲さん(文筆家)
・シトウカイトさん(トラックメイカー/ギタリスト)
・生活さん(イラストレーター)
・りおたさん(イラストレーター)


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・葦田 不見(アシダ ミズ)さん

Profile:詩人。大阪府出身。大阪府在住。2019年、詩文集『不/見』出版。

【名前の由来】
・紙に縦/横で書いた字面で決めました。書くことで「葦田不見」という文字列がほぼ左右対称になること、「葦」という文字のバランスの好ましさに気づきました。
・「水」が好きであること、性別が推測できないような名前にしたいという思いから、「みず」という名前を選びました。「不見」という字は、自らの作品のテーマである「見ること」「『眼』という機能」をひっくり返すという考えから、漢文表現にインスピレーションを受けて決定しました。


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・伊東 黒雲(イトウ コクーン)さん

Profile:文筆家。「不毛の世界に勃つ 木下古栗論」にて、第64回群像新人評論賞・最終候補にノミネート。「ライプニッツのささやかな拷問」第64回群像新人文学賞・第三次予選通過。「第三十三回文学フリマ東京」にて、文学サークル「造鳩會」新作「異界觀相」発表予定。

https://bunfree.net/event/tokyo33/

【名前の由来】

・旅先で偶然見かけた「モード学園コクーンタワー」の「コクーン」という音の響きに魅力を感じました。
・「コクーン」という響きから当てる字を考えると、「黒い雲」という字が収まったため、これをペンネームとしました。


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・シトウカイトさん

Profile:トラックメイカー/ギタリスト。MCバトル用トラック制作、楽曲制作などを手がける。「SCIKA」名義でも活動中。楽曲「Parallel Frappe(feat.あかね)」配信中。

【名前の由来】
・「シトウ」という名前は、電車から見えたお店の看板「紫藤」から拝借しました。
・海外のラッパーと取引するにあたり、英語名が必要になったため、「SCIKA」という名義も並行して用いています。「S」で始まり「KA」で終わる並びで、既に名詞化していないものを選んでいます。


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・生活(せいかつ)さん

Profile:イラストレーター。音楽に寄り添って生きている人々の描写に定評がある。MV制作も手掛ける。バンド「the rebel age」でも活動中。エフェクターブランド「Animals Pedal」とのコラボ商品「Animals Pedal Custom Illustrated by生活」発売中。

【名前の由来】
・ペンネームを考える際に聴いていたバンド「コンテンポラリーな生活」から名付けました。
・「生活」という単語は、多くの人に縁の深い単語であると同時に、どこか生々しさを秘めた単語です。性別を感じさせないという点も含めて、気に入っています。
・何気なく決めた名前ではありますが、多くの人から「生活さん」と呼ばれていくうちに、だんだんとこの名前が好きになっています。


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・りおたさん(イラストレーター)

Profile:主にスポーツイラストレーターとして、様々なイラストやデザインの制作で活躍する作家。湘南ベルマーレ(Jリーグ)、日テレベレーザ(WEリーグ)の公式LINEスタンプ制作、立川・府中アスレティックFCの公式マスコット「アスレくん」のマスコットデザインなどを手掛ける。

【名前の由来】
・本名(リョウタ)をもじって「りおた」としました。当時フェイエノールト(オランダ・エールディヴィジ)で活躍していた、宮市亮選手の「リョウ」という名前が、外国人には発音しづらく「リオ」の愛称で呼ばれていたことから、世界を見据えるという意味合いも込めて名付けました。
・表記は「リオタ」「RIOTA」などを考えていましたが、自分の本来の姿、親しみやすさを表現するため、あえてひらがなの「りおた」としました。
・自分は「世界を見据えるような大きな存在になっても、みんなから笑ってもらい、親しんでもらえる」イラストレーターを目指しています。目指すイラストレーター像を体現できているこの名前は大変気に入っており、20歳の頃からずっと使い続けています。


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取材の結果、いくつかの「命名のキーワード」が浮かび上がりました。

【命名のキーワード】
・気になった単語/好きな言葉・もの
・街で見かけたランドマーク
・文字にして書いた時のフィーリング
・海外展開を見越した名づけ
・既存の名前と重ならない
・自分のイメージの表現
・本名由来の部分を残す

このキーワードをもとに、次はいよいよ自分のペンネームを考えていきます。



3.はじめての命名作業

まず命名にあたり、私を日ごろより知る方に、私自身のイメージについて聞いてみました。以下にブレインストーミング的に書いていきます。

【周囲からみた私のイメージ】
「真面目そう」「理論的」「繊細」「物腰がやわらか」「中性的」「穏やか」「緻密」「品があるのかないのか分からない」「装飾主義」「野心はなさそう」


これを踏まえて、自分の命名において「譲れない」ポイントを定めます。


① 「ユウ」という呼称は残したい
「ユウ」という名前は、本名の一部です。これまでは苗字で呼ばれることが多かった私ですが、サッカー関係や音楽関係で知り合った方には、もうかれこれ4~5年ほど「ユウさん」と呼ばれています。どの場所で呼ばれても違和感なく、すっと耳に馴染むこの呼称は、ペンネームにおいても活かしていきたいと考えています。


② 性別に縛られない名前にしたい
自分のことを振り返ると、「一般的な男性像」とは大きくかけ離れていると感じることが多々あります。性自認に揺らぎはないのですが、一般的な「男性」「女性」のくくりが求められる場面が、私は大変苦手です。ささやかなわがままではありますが、文筆の場においては、「性」が与える印象をなるべく少なくできればという思いを込めて、性別が類推されにくい名前を付けようと思います。


条件にあう複数の候補を用意し、そこから絞り込み、数日間の逡巡を経て、ようやく私のペンネームが決定しました。



4.命名書

ここより先の内容は、旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌「OWL magazine」購読者向けの有料コンテンツとなります。月額700円(税込)で、2019年2月以降のバックナンバーも含め、基本的に全ての記事が読み放題でお楽しみ頂けます。ご興味のある方は、ぜひ購読頂ければ幸いです。

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