しがないも物書きの、

私はしがない物書きだ。
ただパソコンの前に座って自分の思考をただひたすらにタイピングしていく。
カタカタカタ。と部屋に充満したタイプ音とタバコの匂いそして飲みかけの酒の缶。
泥酔した状態で書く小説が一番いい。
主人公が感情的になれば私も乱雑ににキーボードを叩き、ヒロインが微笑めば私も大切な人を抱くときのように優しくキーボードを叩く。
常に登場人物の感情と私の感情はリンクしている。
だから「無」の状態で書き始めなければ彼らに失礼になる。
だから私は酒を飲んで脳を麻痺させる
物語のプロットは意識がきちんとある時の私が書いてくれている。
さてと、彼らの物語もそろそろ終盤だ
これを書き終わったら私も終わるだろう。
まあ私を殺すのは私と同じように人物を書き、そのなかで私という存在を作り上げた筆者にほかならないのだが、
私の死に方くらい私の理想に寄せてくれよ?

『勇者は鞘から剣を抜くことはなくただ落ち着き払った声でこう言った
私の理想の死に方をあなたはさせてくれるだろう?』
パタンと本を閉じる
終わってしまった。
彼の人生をかけた最後の本は一体どれほどの人間が読み、どれほどの人間を感化させ、涙をながさせるのか私には想像できない。
病気をひた隠しにし、「私は誰かが書いた物語だ」と口癖にように言っていた。
彼と酒を飲み、何でもない話で爆笑していた日々はもう来ないのだ。
仕方ない人は必ず死ぬのだ。
もしこれが誰かが描いている物語なら私はこの言葉で閉めよう
「亡くしてからでは遅いのだ」
そう言って男は持っていた本を海に流した。


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