見出し画像

はじめの一音

「26歳になったらトランペットを始めよう」と決めたのは、確か1年ちょっと前のこと。

ふと思い立ったそれは特段何か大きなきっかけがあったわけでもなく、例えるなら椅子の背もたれに寄りかかり「うーん」と伸びをした拍子にぱっと閃いたような、そんな感覚だった。
ただ、そんな思いが生まれる前からささやかな憧れはあった。

昔から大好きな"くるり''というバンドがいる。

1998年にデビューしてから幾多のメンバーチェンジを経ながら多彩な楽曲を沢山発表している。現在のメンバーはボーカル&ギターの岸田さん、ベースの佐藤さん、そしてトランペットのファンファンちゃん。
くるりというバンド自体も憧れであり、高校の時に初めてギターを手にした時は岸田さんを目標にしたし、今もそう。

いろんなバンドを知り始めた学生時代。主にホーン(管楽器)系がメインになるのはスカパラやSAKEROCKとか、主にスカやジャズ系だったりインストバンドくらいだと思っていたけれど、くるりのライブを観て、ロックとトランペットってこんなにも相性が良いんだと気づいた。

特に2012年のROCK IN JAPAN FES.での『トレイン・ロック・フェスティバル』の間奏のトランペットがあまりにも攻めていて、全身の体温が一気に上がるほどの格好良さを今も鮮明に覚えている。
トランペットという楽器が好きになったのは、ファンちゃんの存在が一番大きいかもしれない。

そんなことをぼんやり考えながら過ごしていたある日、用事を済ませがてら、丁度近くまで来たので昔からある楽器屋さんを久々に覗いてみた。
社長さんが亡くなったのでとうとう閉店するらしく、ほとんどの商品が8割引という店内は大体の物が売れていた。
その中で、ショーウィンドウにぽつんとあったトランペット。目が合う。

店員のお姉さんにお願いして出してもらったトランペットは、長らくケースの中にあったようで埃を被っていたけれど、クロスで拭いたら幾分きれいに光った。
ピストンもスムーズに動く。大して壊れてもなさそう。
磨いても汚れの落ちなかったマウスピースは別の物と取り替えてもらった……って、買う気満々じゃん。
とはいえ、「26歳になったらトランペットを始める」と前から決めていたし、なにより実物と出会ってしまった今がそのタイミングなのかもしれない。ならば。

「……買います」とおそるおそる告げてみる。
「ありがとうございます!」とお姉さんの声が嬉しそうに弾んだ。


家に帰って、教則本やYouTubeを見ながら試しにマウスピースを吹いてみる。
唇の震え方が大きかったのか、太い「ブーーーーーーー」という音が出た。
得体の知れない音に動揺する猫。親からは「関ヶ原の戦いが始まる」と言われた。
一応確認だが、私が吹いてるのは螺貝ではない。


戦が始まる音がきれいな音色になるように、頑張って練習しようと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?