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本である必要性を再定義しながらディレクションに挑戦 / 新潟のデザイナーとクリエイターがよくわかる本

まちを編集する本屋「SANJO PUBLISHING」では、本屋とわたしたち。として本屋や図書館で働く、本の製作から出版されるまでに携わるデザイナーやライター、出版社さんの考え方を、本をこよなく愛するすべての人たちに届けるマガジンを発行します。

本屋とわたしたち。に登場する方たちは、あたらしいアイデアや知識、想像性を本をきっかけに生みだそうとする、わたしたちが好きな人たちです。

記事を読むことで、本と人との関係性を振りかえって、それぞれの暮らしの豊かさを今一度考えるきっかけとなればとお届けしています。

コロナ禍で、多くの人たちが公私ともにこれまでの当たり前を見つめなおし、違った見方で再定義せざるをえない状況となりました。

出版に携わる人たちもそう。

広告や小説のお披露目の場となる審査会の中止、また製作までの過程でメンバー同士で感情を共有するときにオンライン上の対話ではむずかしい。

「コロナ禍だからこそ今、クリエイティブの力をみなさんに知ってもらいたい」そう語るのは、2021年2月に発売された書籍「新潟のデザイナーとクリエイターがよくわかる本」のディレクションとブックデザインを手がけたプログラフ株式会社の角田正之(36)さん。

新潟県三条市にUターンし、印刷会社プログラフに勤めながら発行元となる新潟アートディレクターズクラブ(以後、NADC)の運営委員として多方面で活躍する角田さんのおはなしから、刊行されたばかりの本で伝える新潟らしさ、そしてエディトリアルデザインの可能性を探っていきます。

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--角田さん、例年とは違う1年はどうでしたか。

角田:NADCを限っておはなしさせてもらうと、毎年開催する審査会の中止とオンライン総会を開催するカタチで落ち着きました。

NADCはそもそも、県内のクリエイターがデザインと自らの可能性を広げていくための会です。その延長戦上に審査会、そして当時の様子をまとめた年鑑の刊行がありましたが……すべて白紙です。

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NADCで毎年、刊行されてきた本たち。

--このご時世で、イベントの中止や延期を相次いだ中で、みなさまにとっても苦労なされたかと想像します。

2020年7月に、審査会をおこなう予定でしたので、開催寸前まで運営で話しあいを重ねました。ただ、昨今だと1週間先さえ状況がわからないため、5月にはもう、初の審査会中止だねと。

--混乱しているなかでも、本(新潟のデザイナーとクリエイターがよくわかる本)を出すことにした決め手はなんだったんでしょうか。

NADCの会長、迫一成さんのことばでしたね。

「審査会の目的は、あくまでも新潟全体におけるクリエイティブの向上や周知なので。審査会ができないなら、ちがう手段を考えましょう」と。

迫さんに後押ししてもらうカタチで、クリエイターの作品を載せるためにも製作がはじまりました。

--今回の製作では、角田さんがブックデザインとディレクション、両方とも担当されたのですよね。

わたしは、もともと企業の入社案内やカタログを製作してきましたが、エディトリアルデザインは初でして。

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角田さんが手がけた印刷物の一部。

だから本を、さらに紙でつくる意味あいを自分なりに考えてみました。

本そのものや、エディトリアルデザインを調べていくうちに、うっすらと本にして刊行する意味が見えてきて。たとえば、電子書籍と比べると保存や活用、未来へ伝達する意味がより強い。感覚的にページを開けることで、クリエイターの作品ページとの偶然性が生まれる。紙質や厚み、匂い……。

『本』にすることは、感覚まで含めて考えると情報量は各段に多くなるんです。

--ページをペラペラとめくるとき、皮膚感覚で伝わるみたいな感じでしょうか。

はい。加えて、「当たり前であることが価値である」ことを共有したい。そう考え、(本の)冒頭に2007年設立してから続いた審査会の一風景を載せようと決めました。

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角田さんも映っている、NADCの一風景。

--あっ、白黒写真もありますね。

白黒は初年度のときですね(笑)。

写真は、とくに人にフォーカスして選定し、笑顔やときに真剣な顔など。表紙含め、冒頭で読み手を惹き付ける主役は、コロナ以前では当たり前だったこの光景かな、と。 

単なるデザイナーファイルで終わらないように、ここを軸にして本を作っていきました。

--新潟らしさ、出身者として譲れない思いが伝わります。

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「ここのイラストは、カッティングマシーンで型紙をつくって。定規のように描きました」と教えてくれた角田さん。

1製作者としてデザイナーさんと作品を知ってもらうことはもちろんですが、新潟でしか表現できないものにしたかった。加えて今、コロナ禍でみんな閉塞感を感じていますので。

新潟のデザインの『入口』という意味と、苦しい状況を抜ける『出口』という2つ掛けあわせて『トンネル』をモチーフにしました。 

前者は、川端康成さん著者の雪国の有名な冒頭をイメージしながら、個人的に、今と雪国で登場する場面がリンクしているなと感じていまして。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」その一文を意識してつくりました。

--角田さんのおはなしを聞くと、表紙デザインも、白度の高い本文の紙も、印象が変わってきますね。新潟らしいなと感じます。

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新潟といえば雪や米といった『白』のイメージが強いですしね。

今回の製作で印象が残ったのが、一緒に編集をしてくれた運営のみんなに表紙と冒頭を見せたとき。内心、ドキドキしながら卓上に出したら、その場がワーっと盛り上がってくれて。これで、進むべき道筋が共有できたというか。

--旗を立てるのもディレクションでは重要ですもんね。

アートディレクションとはこういうものなのかと、ほんのり体感しました。

--エディトリアルデザインを行う過程に、角田さんにとってあたらしい発見が詰まっていたのですね。

私自身、パッケージデザインやロゴの製作依頼をうけて、自分の範疇で落ち着かせてしまったり、相手にあわせてしまったり。ときに、悔しさも感じていたなかで、今回の本はとにかく面白かった。

デザインとして満足できるものができたので、はい。面白かったですよ。一人ではできなかったし、デザイン業界に関わる人たち以外にとっても、この一冊が新潟のデザインの入り口となってくれれば幸いです。


新潟のデザイナーとクリエイターがよくわかる本
編集・制作:新潟アートディレクターズクラブ運営委員会
ブックデザイン:角田正之
発行:新潟アートディレクターズクラブ
定価(本体1,200円+税)/A4変型判/128ページ/ISBN978-4-9911443-8

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気がつけばあっというまの2時間。

本の読んでいるような、あっというまに時が過ぎるのを感じつつ。SANJO PUBLISHINGは、角田さんがおはなししてくださった「新潟のデザイナーとクリエイターがよくわかる本」の取扱店舗でもあるため、このひとときを多くの人たちに伝えていこう。

SANJO PUBLISHING 制作部担当:水澤
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