「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第111回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
憲問十四の八~十
憲問十四の八
『子曰、愛之能勿労乎。忠焉能勿誨乎。』
孔子曰く、「人を愛していたわらないことがあるだろうか。真心があれば、人を導かないでいられようか。」
(現代中国的解釈)
中国平安グループの董事長、馬明哲は、一代で中国最大の民間保険会社を築き上げた。しかし、デジタル時代が到来し、何をどうすべきか、わからなくなった。そこで、年下のアリババ・馬雲、テンセント・馬化騰に頭を下げ、教えを乞うことにした。そうして2013年、三者出資による、ネット保険会社「衆安保険」が誕生した。創業者“三馬”の真心が通じ合った。
(サブストーリー)
衆安保険は、成功した。健康、デジタルライフ、消費者金融、自動車などを重点分野に、よりパーソナライズされた、新しいハイテク保険商品を次々に開発、損害保険業界を革新した。4年目の2017年には、香港市場へ上場。ネット保険会社初の上場企業となる。2021年の保険料総額は203億7000万元、前年比21.9%増、純利益は11億6000万元、前年比110.3%増だった。2年連続黒字を達成、経営は完全に軌道に乗った。
2022年、新しい市民サービス関連の保険商品を97種も発売した。物流、建築、建設、運輸、物業、貨運、保安、家政、宅配、の9業種を中心に、医療、傷害など柔軟な保証を提供している。例えば2022年、大型リスク事件が発生したとき、衆安保険は5687万元の保険金を速やかに支払った。地震や航空事故など災害の際、緊急対策サービス措置により、オンライン申告で支払い可能なシステムを構築し、損保の可能性を大きく拡げた。オンライン保険会社のパイオニアにふさわしい活躍を見せている。三馬の愛の結晶は、大きな実を結んだ。
憲問十四の九
『子曰、為命裨諶草創之、世叔討論之、行人子羽脩飾之、東里子産潤色之。』
孔子曰く。「(鄭国では)外交文書の作成の際、裨諶が草稿を書き、世叔が検討し、外交官の子羽が添削し、東里(地名)の子産が磨きをかける。」
(現代中国的解釈)
現在、中国はスマートシティ、行政のDX化を進めている。そのカギはブロックチェーン技術にあり、中国はその社会実を進めている。2020年4月、ブロックチェーンのインターネットと呼ばれるBSN(Block-chain-based Service Network)をスタートさせた。これにより中国企業は、アプリの開発、展開、運用、保守のコストを削減できる。自社で一からDXを設計する必要がない。
(サブストーリー)
ただし、その後のBSNについては、あまり報道は出ていない。ブロックチェーン技術の実装が進んだのは、地方行政である。こちらのトピックには事欠かない。例えば北京市では、各部局で情報が完結してしまう“情報孤島”を防ぐ、“北京市目録鏈2.0”をリリースした。北京市の80部門、16区、10余りの社会機構を鏈(チェーン)で結び、そのチェーン上には、情報システム2700系統、管理項目は50万、数百億のデータが、部門を跨いでやりとりされる。データセキュリティーは共有され、地方政府の行政事務と、社会データの安全で秩序ある流通が保証される、かつて中国で行政サービスを受けるためには、まず忍耐、次に人脈をたどり、駆使する必要があった。DXの進展により、中国の地方行政は面目を一新しつつある。
憲問十四の十
『或問子産。子曰、恵人也。問子西。曰、彼哉、彼哉。問管仲。曰、人也。奪伯氏駢邑三百。飯疏食、没歯無怨言。』
ある人が子産について問うた。孔子曰く、「恵深い人です。」子西について問うた。曰く、「彼ですか、彼ですか。」管仲について問うた。曰く、「人物です。伯氏の駢邑三百戸を奪ったが、伯氏は粗食に甘んじながら、怨み事を言わなかった。」
(現代中国的解釈)
フードデリバリー業界は、激しい市場の奪い合いを演じてきた。百度系「百度外売」が先行したが、後にアリババ傘下に入る「餓了蘑」に吸収され、現在は「美団」と2トップを形成、シェアは両者で90%以上になる。やがて料理だけでなく、さまざまな商品を即配するように進化した。この段階に至ると京東系「京東到家」もライバルに入る。いずれにせよIT巨頭系に集約された。
(サブストーリー)
この市場へ、もう1つのIT巨頭、TikTokの抖音が参入する。オンライン界において、境界を設定しない抖音にとって、高頻度リピートの多い、生活総合サービスは、巨大な市場空間に見える。抖音は2021年下半期からフードデリバリー事業を模索し始め、2022年8月、まず餓了蘑と提携した。美団に引き離された餓了蘑には、渡りに舟だったろう。
現在は、北京、上海、成都の3都市でデリバリーサービスのテスト中だ。具体的なタイムテーブルは、明示されていないが、今年3月から、全国展開に入るようだ。それは餓了蘑や美団とは異なり、主に単価が100元を超えるグループ消費、アフタヌーンティーや、深夜軽食市場などを狙う。グループを抽出するのは、抖音の十八番だ。
ユーザーの投稿、閲覧履歴から、商品を推奨する“興趣電商”はすでに確立の段階にある。この考え方をフードデリバリーへの浸透させ、感性によるマーケティング、新たな市場創出へ向かっている。IT巨頭の中でも、一歩抜け出した感は間違いない。
昨年12月上旬、抖音のパブリックアカウント、「抖音生活服務商業観察」は、抖音ショートビデオまたはライブコマースの出店者は、ユーザーの商品購入後、抖音の配送システム、自社配送、どちらも選べる、と発表した。出店者の物流整備に動き出した。本気度は間違いない、2023年は2022年の2倍、1500億元を狙う。
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