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#010 ゲームオーディオのおすすめ本

ノイジークロークの金井です。今日はタイトル通りですがゲームオーディオの本を紹介しようと思います。

ゲームオーディオはポピュラー音楽やクラシックの勉強に比べたら、何をどう勉強していったらいいのかという筋道が立てづらいイメージが強いです。また参考書籍もかなり限られているため、知っている人から直接教えてもらうか、ネット上の情報を頼りにするしかない場合が多いのではないかと感じています。

もちろん自分で体験して咀嚼し、自分なりに解釈を行って制作に生かしてくということは重要なことだとは思います。ただそうは言っても鑑賞者の前提知識の多寡で、一つの作品から受け取る事ができる内容には違いが生まれてくるため、それのみでスキルを上げていくことが出来る人はなかなか限られるのではないかなと考えます。

特に実装のような技術的な部分については、ゲームを遊んでサウンド演出を味わうだけでなく、その演出を実際にミドルウェアで再現する場合は、具体的にどうやって実装すればよいのかという部分まで考えないと、実際の制作に活かすことはなかなか難しいと個人的には感じています。

そのためにも、実装を行うための手法やフレームワーク、先行者の考えや制作手法を事前に知っておくことは、とても有意義なことでないかなと思います。

そこで今回、効果音制作や実装について、本によってはまさにゲームオーディオ全体を扱った本をいくつか紹介したいと思います。

The Sound Effects Bible: How to Create and Record Hollywood Style Sound Effect

2008年出版のRic Viersによるサウンドデザイナーに向けた本です。効果音制作をするといっても、フォーリーだったり、野外での収録だったり、素材の加工だったりとそのアプローチは多岐にわたるのですが、それら全てが現場レベルの知識でまとめられている本です。また制作方法に留まらずその前段階についての知識の記述も多いです。例えば簡易フォーリーピットの作り方が載っています。またこの本の目玉はなんといってもThe Sound Effects Encyclopediaです。訳すなら効果音大百科ですが、様々な効果音の作り方や収録方法が100ページを超えるボリュームでまとめられています。国内の本だとこのボリュームの本はほぼないので、英語といえどもこの章は辞書を引きながら読む価値はあるかと思います。

以前の記事に書いた車のクラッシュ音の作り方であったり、水面付近の爆発音と水中での爆発音の作り方であったり、手裏剣の音の作り方であったりと、メジャーな音からマイナーな音まで作り方が書いてあります。どの項目も、どういう素材をベースにするのかという説明であったり、何故そういう音にするのかということまで記載されていることが多いので、結果だけでなく作る過程も知ることができます。

出版されてから13年近くなるのですが、この本のように効果音の作り方について深く書かれた本は未だ他にはないため、一読の価値はあるかと思います。

Game Audio Implementation: A Practical Guide Using the Unreal Engine

2015年出版のRichard StevensとDave RaybouldによるUnreal Engine 4でのサウンド実装についての本です。UE4のサンプルプロジェクトを触りながら、サウンド実装に関する項目について一つ一つ見ていく内容となっています。その内容も効果音から音楽、ダイアログと一通りのテーマを取り扱っており、実装をするのであれば、どの役職であっても役に立つ本だと思います。基本的にUE4のSound CueとBlueprintを使用してサウンド実装を行うのですが、何故そのような実装をするのかという考え方とともに説明が行われるため、ここで学んだことはミドルウェアを使った場合にもそのまま活かすことができます。なんといっても効果音やBGM実装の際に使われることが多い実装方法が一通り網羅されているところが魅力です。その実装方法も詳細に説明されており、特に初級者にとっては最適な本じゃないかなと感じます。

例えば効果音で言うと、効果音実装の章ではアセットの再生時間という観点から、実装でのバリエーションの生み出し方を下のように紹介しています。

非同期ループ
・尺の異なるループ波形を2つ同時に再生することによってバリエーションを生み出す
・ループ波形を複製し、それぞれの再生速度をランダムで変化させた上で、再生ディレイをかけることでバリエーションを生み出す

ランダムタイム:ブロック
・複数のワンショット波形(例えば3種の風の音)を再生する前にランダムな値のディレイを挟むことで、音の組み合わせにランダム性が生まれる、というバリエーションの生み出し方

ランダムタイム:フラグメント
・上の例よりももっと短い波形(例えば鳥の鳴き声)を、再生のたびにディレイを挟むことで、バリエーションを生む手法
(一つの長いループ波形に比べるとメモリの観点でもバリエーションの観点でも有利)

これらの方法は各種ミドルウェアでも行うことができる実装方法なうえに、アイデア自体はいくらでも発展させることができるため、幅広く活かすことができるのではないかなと思います。

経験者からすると当然の手法かと思いますが、サウンドデザイナーなりたての頃はそもそもこのような手法を知る機会がなかったので、個人の経験で言えば非常に勉強になりましたし、今も実装する時のベースとなっています。

なお、この著者らはUnreal Engineのオンラインラーニングでもコースをいくつか公開していますので、興味がある方はぜひ。

Principles of Game Audio and Sound Design: Sound Design and Audio Implementation for Interactive and Immersive Media

2020年出版のJean-Luc Sinclairによるゲームオーディオ全体を扱った本です。内容をざっくりというと、サウンドそのもの考え方や、サウンドデザインの手法、ゲームエンジン上での減衰・リバーブ設定などのヒント、アダプティプミキシングからUnityでのオーディオプログラミングなど、ゲームオーディオに関することを包括的に扱っています。ただ驚くべきことに、そのどの項目も非常に興味深い内容が多く扱われています。

サウンドデザインの章では各種エフェクトの紹介も行われるのですが、例えばコンボリューション処理の最適化という項目で下記のような内容が紹介されています。

1.コンボリューションは2つのオーディオファイルをスペクトラム上で交差させることだといえる。つまり2つのオーディオファイルが似たようなスペクトラムの時に面白い音になる。言い換えると、2つの波形が似たような周波数を含んでいる場合に最も興味深い結果となる事が多い。(...)

2.高域のロスがコンボリューションの副作用だということは特に知られているため、そのロスを補償する必要がある。このロスの原因は単純で、2つのスペクトラムの乗算は、2つの波形の中で特に目立った帯域を強調し、逆に目立っていない部分は目立たなくなるということを意味するからだ。多くの音は、人間の可聴帯域近くの音は殆ど含んでいない(含んでいたとしてもそれ以外の帯域に比べるとかなり少ない)。その結果、元の2つの波形よりも高域が鈍って聞こえてしまう。

3.FFT処理には時間解像度と周波数解像度とのトレードオフが存在する。トランジェントが多く含まれた音を扱う時は、短いwindow設定にするのがおすすめだ。1024sample以上の長いwindow設定は周波数情報が多く含まれた音に使用するのが適している。

僕が勉強不足なだけという節もありますが、確かに言われてみればそうだよね、今度制作する時は意識して調整してみようかな、という内容が各所に散りばめられています。かつ、出版自体も2020年4月出版とかなり新しいので、近年の知見が引用されており、新しい知識を知る切っ掛けも多くあるのではないかなと感じます。

おわり

今月は完全に紹介記事となってしまいました。ちなみに今回の3冊のうち2冊はRoutledgeとFocal Pressになるのですが、どちらもTaylor & Francis Groupの出版社です。ゲームオーディオ関連の洋書はだいたいこの出版社から出版されるので、もし新しい本をお探しの場合はこのRoutledgeのサイトを探すのが良いのではないかなと思います。

以上となります。それではまた来月。

参考文献
Richard Stevens, Dave Raybould, Game Audio Implementation: A Practical Guide Using the Unreal Engine, Routledge, 2020
Jean-Luc Sinclair, Principles of Game Audio and Sound Design, Routledge, 2020

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