スキー場のモノレールは、上りより下りに乗るべきでした。
気温は-3℃、
風の吹き荒ぶ、山形は蔵王山の頂上。
スキーの名地であるここは、頂上付近に「鳥兜(トリカブト)駅」という少し物騒な名前の駅があり、
そこまでモノレールで登っていくのが通例となっています。
リフトでもいいのですが、この季節の風は身に堪えるもので。
先日、久しぶりにスキーの用事なども無しに、ただ物見遊山で山頂に登ったとき
多くの人はスキーやスノーボードをしにきているわけですから、当然下りは滑っていくわけですが
私は何も持っておりませんでしたので、15分おきに往復する帰りのモノレールに乗りました。
乗車口とモノレールの車体には15cmほどの隙間があり、そこから蔵王の容赦ない雪風が、山の頂から逃げようとする私の足元を襲いました。
ひょうっ、と思わず声を上げて、たまらず車内の端っこの席に逃げて、ほんの数分のはずの出発までを今か今かと待ち侘びます。
ふと車窓から外を眺めたとき
透明な窓ガラスには雪がちらちらと張り付いて、外には何十年ものかわからない鉄柵に、もはや氷と化したそれがまとわりついています。
車内は寒くこそあれ、中にあるのはコップいっぱいかそこらくらいの雪をぶちまけている跡くらい。
その分、車体を支える金属の柱はまるでスパイの眼光のように冷ややかで、
黒いゴムの吊り革が、所在もなさげに揺れています。
氷の張った池の中の魚は、こういう景色を見てるのではないか。
なんとなく、そんな妄想をしてしまいました。
グラッ、と足元が少し浮かぶような感覚とともに、モノレールが進み始めます。
先ほど通った道を逆走するなんて、見どころも何もあったもんじゃないと思いましたが、
スキーで降る方々を尻目に悠々と木を見ながら去るというのは、それはそれで風情がありました。
この記事を読んだ、あなたにだけはお伝えしておきたいこと。
ウィンタースポーツの機会まで、ぜひ覚えておいてください。
スキー場のモノレールは、上りより下りに乗るべきでした。