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文化系の謎キャリア・インタビュー⑤ まちのコトを自分ゴトに、岡見厚志さん(World Seed代表理事)

(記事担当:堺原東子)

2009年にWorld Seedを立ち上げ、「まちのコトを自分ゴトに」をテーマに活動されている岡見厚志さん。私は大学1回生の頃からWorld Seedが主催する「ダブルスマイルサンタ」というプロジェクトに参加し、素敵な活動だと身を持って感じたからこそ、その裏側や岡見さん自身に興味を惹かれ、この度取材をさせていただいた。

そんなWorld Seedの取り組みとその場づくりの仕組みや、ボランティアコーディネートを行う上でカギとなるものを解明していきたい。

World Seedとは?その仕組みを解説

多くの人がボランティア活動などを通してまちに関わり、その経験をいかしてまちづくりや社会課題を解決する主体となって欲しい。そんなビジョンを達成するために活動を展開しているWorld Seed。World Seedの取り組みには3つのフェーズがあり、①土壌をつくる、②種を植える、③水をまく、と整理している。このサイクルの具体例を見ていきたい。

■World Seedのサイクルシステム
①「土壌を作る」
ダブルスマイルサンタ」というクリスマスイブの夜、サンタクロースになって、日本の子どもたちのもとへ訪問しクリスマスを演出するプロジェクトや、「天神祭ごみゼロ大作戦」という日本三大祭・大阪天神祭でのごみをゼロにすることを目標に掲げ、エコステーションの設置 ・リユース食器の導入 ・ごみの拾い歩きをするプロジェクトなどがある。どちらのプロジェクトも長期的な活動をするボランティアリーダーと当日参加のボランティアスタッフで構成され、これらのプロジェクトを通して多くの人がまちのために活躍できる場を提供している。

「天神祭ごみゼロ大作戦」のゴミの拾い歩き

②「種を植える」
Osaka Social Action 合同新歓」という、NPOや市民団体などボランティアを募集している団体と大学生のマッチングイベントを実施。学生や社会人に向けて、地域にどのようなボランティアがあり、それぞれどのような活動をしているのかを知るための場を提供し、ボランティアなどでまちに関わる人を増やしている。

③「水を撒く」
活動の中心を担う存在になってきた学生をサポートする合宿型イベント、「Osaka Social Action Camp」を実施。実際にボランティアなどを通して地域で活躍している人へ向けて、さらにステップアップできるよう、勉強会やキャンプ式のイベントを開催。

このように、多くの人々がまちに関われるよう参加ハードルの低い当日ボランティアという形のプロジェクトがあったり、そういったイベントから2次段階として、長期的なボランティアを知れるような場づくりを行っている。最終的にはそれぞれがさらにステップアップし主体的にプロジェクトに取り組める場が用意されている。World Seedはそういった丁寧な仕組みづくりによる活動体系なのである。

World Seedのサイクルシステム

■岡見さんのコーディネーターとしての想い
岡見さん自身がボランティアを集める上で大切にしていることは何だろうか。岡見さんはこう語る。

参加することが目的ではなく、参加者のそれぞれの意識を変えられるようなプロジェクトにすることを大切にしているんです。何となく参加するより、その趣旨や、活動をする意味となる社会課題を知ることによって、地域に帰った時により実りがあるんですよ。

具体的に天神祭ごみゼロ大作戦を例に挙げると、ボランティアリーダーは、当日に向けて3か月間の研修を受けるそうだ。World Seedのメンバーによる説明会を受けた後、実際に祇園祭や京都大作戦でのごみの様子やその取り組みを自分の目で見て、その後当日に向けて歩いて天神祭の会場を確認したりする。当日参加のボランティアのスタッフには、1.5時間の説明会を受けてもらい、開催の意味や3R(リデュース・リユース・リサイクル)などごみについての入門的な知識から環境についての学びの場を提供している。

しかし、社会問題を多くの人に深刻かつ身近に感じてもらうことはやはり難しい。そんな中であっても、しっかりとした情報量で真摯に向き合い伝え続けることが大切だとのこと。

そうでないとやっている意味がないとすら感じます。100人のうち20人でも10人でもいいから、響いたら価値があると考えているんです。

イベント当日がゴールではなく、「一人一人の生活・考え方の中に社会問題に対する意識を植え付けること」こそがその趣旨でありイベントのゴールなのである。さらに岡見さんはこう話す。

ボランティアをコーディネートする上で、なるべくやりたいことをやりたいようにやってほしいという思いと、タスク量の塩梅が難しい。自分の興味関心でやろうと思って主体的に来ていることを考えると強制することなく進めたいと感じますが、それだけではうまくいかないんです。

そうなると「やる気にさせること」がカギとなるのではと考えた。では、そのコツとは?  岡見さんの答えは、「任せること」。失敗をしてもいいからとにかく任せることで、その人自身がそのプロジェクト内での活動の存在価値・居場所を見出し、さらに社会問題について興味関心が湧くことが理想のようだ。このようなサイクルの中で、次にやりたいことを提案し、社会にアクションを起こし、さらに広い社会と繋がっていけることを考えると、まるで一つの教育施設のように感じる。任せた結果失敗することもあるけれどそれはそれでいいと寛大な心で見守ることがボランティアコーディネートのカギであり、またその考えの根本には、「社会を作るベースは人であり、人づくりから素敵な社会が生まれる」といった、岡見さんの考えが強く反映されているようだ。

取材を受ける岡見厚志さん


ボランティアコーディネートを通じて行う協働の取り組み

世の中にはいろんな団体が存在し様々な活動をしているのに、手を結んで一緒にやるということがないために、NPOが小さな市民活動で終わってしまい、あまり大きなアクションになっていないのではないか。このように他分野ネットワークの少なさをWorld Seedの立ち上げ以前から感じていた岡見さん。そこでプロジェクトに反映された、「協働」という考え方。その考えについて詳しく紐解いていきたい。

■「実働の伴った他分野ネットワークの構築」とは
World Seed設立当初のコンセプトは「実働の伴った他分野ネットワークの構築」だった。協働という言葉は聞き慣れないが、どのようなものだろうか。
取材を通して伺ったその協働の考え方とは、まさに「横一並び」なのである。どこか主催団体が存在するのではなく、みんなが本当の意味で主催団体なのだ。いわば先生や学級委員のいないクラス。しかし、ただ任意的に集められたクラスと異なるのは、それぞれの主体性が強いということ。全ての団体が課題解決に向けて強い想いがある。その想いこそが横並びの体系を実現させたのだろう。

一方「他分野ネットワーク」という観点から、ともに活動するネットワークも多岐にわたる。実際に天神祭ごみゼロ大作戦を例に挙げてみると「ごみゼロネット大阪・Rびんプロジェクト・大阪ごみ減量推進会議」などのごみ関係の市民活動・NPO、そしてさらに行政や事業者で実行員会を作りプロジェクトを運営している。多くの分野の人と関わりを持つ中で新たなネットワークが生まれる。これこそが「実働の伴った他分野ネットワークの構築」だということは言うまでもない。そしてそれは、本イベントへの影響だけでなく、今後の取り組みの種となることが期待できるコーディネート法なのである。

ひとつひとつのボランティアコーディネートが協働を生み出す


特殊なキャリア変遷

大学在学中にWorld Seedを立ち上げ、同時期に環境省近畿環境パートナーシップオフィス(通称:きんき環境館)で勤務していた岡見さん。そしてその2年後に八尾市役所環境保全課へ転職し、3年後に独立を決める。そんな特殊なキャリアの持ち主に聞きたい、キャリア変遷の経緯。

■大学4回生から始まったキャリア構築
いつから現在のキャリア構築に至ったのか。岡見さんのゴールは昔から変わらず「社会をよくしたい」というものだったそうだ。社会を作るベースは教育であり、人づくりの大切さを感じていた彼は大阪の教育大学に入学した。
以前から社会課題に何らかの形で関わりたいと考えており、大学4回生の時に友人と環境サークルを立ち上げる。そうして主体的に社会に関わっていく中で、その熱意が同じように活動をしている人の心に触れ、とある環境イベントで声がかかる。

そこから大阪府柏原市の公募型の記念事業に事業提案をしたり、現在は代表を務める「Rびんプロジェクト」を通した環境啓発の取り組みなどに同行するように。そんな中で、「色々な団体同士で手を組んだらもっと大きなアクションになる!」という気持ちを抱いた。そういった経緯からWorld Seedの最初のコンセプトは、「実働の伴った他分野ネットワークの構築」となったのである。

そして最初の就職先であるきんき環境館での仕事も同時期に紹介されたそうだ。きんき環境館では近畿圏内の企業、自治体、NPOなどの中間支援を行っていた。またここでの仕事のつながりから、より近隣の地域とコミュニケーションが取れる八尾市役所に移ったのである。

このようなキャリアプロセスを経て、「色々な団体同士で手を結んだらもっと大きなアクションになる!」という気持ちがさらに強くなった岡見さん。
学生の頃からWorld Seedを生業にしたいと考えていた岡見さんたちは、独立を決める。これが2014年のことだった。

■将来のビジョン
そんな岡見さんの将来的なビジョンとは。岡見さんはこう語る。

『この界隈で働いてくれる人がもっと増えたらいいな』という想いから、もっとお金を生めるようなプロジェクトを作っていきたいですね。それによって、NPOが潤い、活動が安定し、さらにはその活動価値が高まっていくのだと思っています。

現在はあまり環境に携わるお仕事が少ないということを課題に感じているようで、「環境の畑や社会貢献の仕事で仕事をしたいなと思う人たちが、働ける環境づくりやプロジェクトづくりをしたい」という。


新しいキャリアの形 〜インタビューを終えて〜

私は以前から「岡見さんの本職は何なのだろう?」と疑問に思うことが多かったが、今回の取材においてもなお、その答えがはっきりと明かされることはなかった。しかし、そもそもその疑問すら的を射ないもので、キャリア構築において軸とするものは「職」でなく、その「想い」であってもよいのだと新たなキャリアの形を知ることができた。岡見さん自身のモチベーションについて尋ねた際に、こう語ってくれた。

やはり、World Seedで建てている『まちのコトを自分ゴトに』というような、より社会にとっていいことがうまれたらいいなということがモチベーションですね。さらに、目の前の目標よりも、新たにNPOへ就職をしたいと思った人の働き先がきちんとあるような環境を作っていきたいです。

そのような強い想いが岡見さん自身を動かしているのだと改めて感じることができた。

自分の実現させたいものは何かを考えることによって、より理想のキャリアを送ることができるのではないかと取材を通して実感した。その実現させたいものが岡見さんにとって、「社会をよくしたい。」というもので、その実現のために、教育的なアプロ―チによって場づくり・人づくりを行い、より良い社会の構築を実現させている。

取材を通して「協働」、そして「人づくりのための場づくり」の価値や重要性を知ることができた。World Seedやそこでの仕事づくりこそが、その価値を体現し、そこに関わる全ての人が体感的に学びを得られているのだと考える。彼の軸が、何か一つのキャリアではなく、その想いや実現したいビジョンであるからこそ、キャリアの型にはまることなく「働いている」のだと感じた。

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