派遣社員沼<中編>
労働環境
派遣仲間
「お互い就職できてよかったね!」
そう話掛けてきた同い年の「派遣仲間」はその派遣先を「2日」で飛んでしまった。
(詳しくは派遣社員沼<前編>参照)
その2日で飛んだ(バックレ)気持ちは分からんでもない。
時は「東日本大震災後」の2011年6月の初夏。
政府から各企業へ「電力不足」の理由で「節電」をするよう呼び掛けされていた時期だ。
その為、工場内の「エアコン」は使用できず、「溶接」の煙と熱で立ち込める工場内の温度計は「40℃以上」を指していた。
毎日滝のような汗を流し、何名か「熱中症」でダウンしていた。
私と同じ派遣会社の仲間は、もう初日で「青い顔」をしていた。
「殺す気か?」
誰もがそう思っただろう。
異なる就業内容
この派遣先に来る前に、軽くこの会社での「就業規則」を聞かされた。
■派遣会社で聞いた就業規則
・残業は殆どない
・夜勤ない
・土日休み
だが、実際は違っていた。
■実際の就業規則
・強制2時間の残業(12時間労働)
・夜勤各週交代制であり(夜19~朝7時)
・土曜も出勤(週1休み)
その為、身体に負担が非常にかかり、正に「肉体を酷使する」という言葉がピッタリであった。
二日酔いでは仕事にならない為、土曜の夜(または朝)以外は「お酒」が飲めなかった。
派遣先の「正社員」のメンタル
課長 係長 現場リーダーのような立場のある社員達は、基本「敬語」で接してくる。
当然「派遣社員」は派遣されてきた「別会社」の人間の為、当然といえば当然である。
だがそれと同時に、少しばかりの「疎外感」のようなものを感じてしまう。
逆に一般社員はタメ口の「高圧的な」態度で接してくる。
これは「弱い者がさらに弱い者を叩く」かのような、自然の摂理に近い社会がそこにある。
・仕事が辛くて「無断欠勤」する社員。
・派遣社員に愚痴を言いながら仕事をする社員。
・上司の悪口を言いながら仕事をする社員。
派遣には強いが、リーダーや係長には、めっぽう弱い。
この「高低差」が顕著だった。
強い者に「噛みつく」というような「ジャイアントキリング」のメンタルを持った人は「皆無」だった。(日和見主義の集団)
「他に行くところが無い」という重い十字架を背負い、自分自身の運命を恨むかのような、そんな働き振りに映っていた。
おそらく我々派遣社員は、その「はけ口」になっていたのだろう。
「福利厚生」のある「正社員」だが、そのメンタルは我々「派遣社員」と同等のように見えた。
例えるならば「士農工商」
位は高いが心は貧しい「農民」のようだった。
嬉しい?誤算
時給1100円の契約の為、月給はあまり期待していなかった。
おそらく手取り額で「15万円」程度かと予想していた。
だが実際は「残業手当」「夜勤手当」「土曜出勤」が重なり、また「熱中症で倒れなかったら毎月3万円のインセンティブ」という分かり易い「手当」もあり、手取り額は倍の「30万円」ほど貰っていた。
更に休みの日の大半は家で寝ていた為、「お金」を使う暇が無かった。
その為、約半年間働いて「約100万円」貯金することができた。(実家暮らし)
それは文字通り「身を削る思い」で掴んた「100万円」でもあった。
派遣社員沼<後編>へ続く
■派遣社員沼<後編>予告
身体を酷使して掴んだ一握りのカネ。
「はたらくって何なのだろうか?」
暗闇の夜勤の中、その意味を自問自答する日々。
唯一、溶接の光だけが「我を」照らしてくれる。
次回ラストを飾ります。
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