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生身の人間を推すということ

 ジャニーズのアイドルグループ、SnowManにハマって一年ほどになる。

生身の人間を推すのは何年ぶりだろうか。二次元、2.5次元ばかり推していた私は、正直あまり生身の人間に熱をあげたくないなという気持ちが長年あった。
生身の人間を推すのは楽しい。その人の一挙手一投足が供給になるからだ。
一人の人間として生きているのだから当然なのだが、その人がブログを更新すればそれは供給だし、テレビに出演すれば供給だし、雑誌のインタビューに答えれば供給になる。
二次元や2.5次元では考えられない供給量だ。
ただ、生身の人間を推すことには大きなリスクがある。
それはファンが推しに多かれ少なかれ何かを「託して」しまうことだ。

推しにこうなってほしい、こんな姿を見せてほしい、こんな仕事をしてほしい、もっと売れてほしい、逆に遠くにいかないでほしい、変わってほしい、変わってほしくない。交際相手を隠して夢を見させてほしい、結婚してほしくない、いや、結婚して幸せになってほしい。
ファンが推しに託す思いや願いは様々なものがあるが、勿論推しがファンの望むような姿になっていくとは限らない。
ファンの意に反した振る舞いをするかもしれないし、それどころかファンの期待を大きく裏切ることをする場合もある。
相手は生身の人間なのだからファンの理想のように振る舞ってくれるとは限らない。
しかし、偶像を売って商売をしているアイドルに対してファンが何かを「託す」のは、その商売の性質上仕方がないことだとも思っている。

所謂「ガチ恋」や「リアコ」を嘲笑する人も多いがアイドルビジネスはそうやって疑似恋愛でお金を稼いでいる側面は大きいのだから、そのようなファンが出てきてしまうのは当然とも思う。
私もガチ恋ではないにしろ、推しグループに色々なものを託してしまっている。

推しは思いや願いを託される願望器なのだと思う。
しかし願望器に注がれた大量の願いの重さに耐えきれず、願望器が破壊されてしまう悲劇が起きることも多々ある。
生身の人間は願望器になるのには脆過ぎるし、生身の人間の願望器に注ぐにはファンの思いは重く、大き過ぎる。

二次元の推しは生身の人間ではないため、ある意味どこまでもファンの思いや願いを受け止め続けることができる。
二次元の推しは現実世界で犯罪を起こしたり不倫などの不祥事で糾弾されるようなこともない。
二次元の推しも作中でファンから幻滅されるような行動をとったり設定が大きく変わってしまうようなことはあるが、三次元に比べればファンを失望させるような展開になる可能性は低い。
二次元の推しはファンが見たくないような側面は描写されないことが多いし、逆に描写されていない行動はファンが都合よく補完することもできる。
それがよく言われる「二次元は裏切らない」の言葉の意味なのだと考える。 

翻って三次元の推しは言葉選びは適切ではないかもしれないが、必ずといっていいほどファンを「裏切る」場面がある。
ファンの思いとは大きく異なる振る舞いをする場合が必ずあるということだ。
それは仕事内容についてかもしれない、あるいは交際相手や結婚についてかもしれない。不祥事を起こしたり、最悪の場合犯罪を犯したりするリスクもある。
三次元の場合引退や退所などで推すこと自体不可能になることも珍しくない。
三次元の推しという存在に対して、ファンは何もできない。
生身の人間の行動や決定に、ファンは一切介在することができない。
せいぜい推しに対して可能な範囲でお金を使って応援するくらいだ。
それなのに対象を「推す」以上、どうしても生身の人間に対して何かを託してしまう。
それが生身の人間を推すことの恐ろしさだ。

そんなことを考えているのにジャニーズのアイドルグループにハマってしまったのだから、オタクとは難儀なものだと思ってしまう。
案の定私はグループやグループの中の推しに対して、色々な思いや願いを託している。
そして彼らの仕事や言動に対して小さな裏切りを感じたりもしている。
勿論その裏切りだと感じる行為は身勝手かつ一方的なものなのだが。
これだから三次元を好きになるのはしんどいんだよな、とは思うもののそれでも好きになってしまったのだから仕方ない。
この思いが冷めない限り、彼らをできる範囲で応援していくしかないと考えている。
生身の人間を推すと決めたのだから、ファンの側も腹を括らなければいけない。
つらつらと書いてはみたものの、諸々の葛藤を乗り越えるほどSnowManは面白く魅力的なグループだし、最近のジャニーズはジュニア含めとてもアツい。
リスクが高いので三次元は推さない、という長年の矜持すら投げ出すほどに、三次元のアイドルってこんなに素晴らしいんだ、とすっかり心奪われてしまって、早一年が経ってしまった。

願望器に願いを注ぎ過ぎないように気をつけながら、今日も推しと推しグループの動向を追いかけ、供給を享受する日々だ。

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