【オススメ小説23】「小説は、好きですか?」『小説の神様』
「小説がー、人の心を動かすものか」
「小説には、わたしたちの人生を左右する、大きな力が宿っているわ」
本気で小説と向き合う青春小説
こんにちは、名雪七湯です。23回にもなった本紹介ですが、今回は相沢沙呼さんの著書『小説の神様』を取り挙げたいと思います。
1、本情報、作者情報、あらすじ
『小説の神様』相沢沙呼 2016 講談社
『小説の神様 あなたを読む物語 (上)』2018
『小説の神様 あなたを読む物語 (下)』 2018
映画化し、佐藤大樹さんと橋本環奈さんのW主演で話題となった今作。
著者の相沢沙呼さんはミステリー作家兼、ライトノベル作家兼、漫画原作者とあり、小説、漫画好きな方はどこかで彼の作品に触れたことがあるのではないでしょうか。2009年に『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。最近では、2019年の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が四つの賞を受賞するなど、意欲的に活動に取り組み名作を生み出し続ける。
以下、あらすじになります。
高校生で作家デビューするも、売れない作家として細々と活動する千谷一也。彼のクラスに転校して来たのは売れっ子作家の小余綾詩凪だった。小説というものに疲弊してしまった千谷と、「小説の神様」の存在を信じる小余綾。二人は正面からぶつかり合いながら、合作を手掛けることになり……。
2、小説の神様
「僕はたぶん、小説の主人公には、なり得ない人間だ」(P7)
という、若干のメタ発言から始まる今作ですが、タイトル通りテーマは
「小説」
「小説を題材にした小説にハズレ無しの法則」を打ち立てようと奮闘する私ですが、この作品もその一つです。大当たりになること間違いなし。
今作はしがない小説家、千谷一也の語りで物語は進みます。
「小説なんて」と言い出す人がいれば殴ってやりたい気持ちになりますが、表現者として小説と真剣に立ち向かいながら、しかし、挫折してしまい小説を信じられなくなった彼の過去に触れていると彼の言葉の重みが産まれます。「小説なんて」と言い出すやつを小説大好きの主人公が張り倒すようなヒーローものでないところが、この作品の魅力でもあります。
「わたしには、小説の神様が見えるからー」(P31)
と豪語する、美少女売れっ子作家であり転校生でもあるという属性てんこもりの小余綾詩凪。彼女はただ愚直に小説の力を信じます。
「そんなに恵まれた人生なら、世界も明るく見えるだろ」という声も聞こえてきますが、彼女もまた必ずしも順風満帆に人生を送って来た訳ではないのです。人の汚い部分に触れてでも、小説で地獄を見る羽目になっても、人の紡いだ言葉を、小説の神様がいることを信じて止まないのです。
小説ってそんなに素晴らしいものですか?
私も幾度となく考えてきたものです。本を読んでいる時は夢中になり、その世界の住人の一人になる。けれど、本を閉じた瞬間に心は現実に戻される。酷いこともあるし嫌なこともある現実に。小説を読んで今日から善人として生きようと決断しても、すぐに人を傷付けてしまう。
小説に力はない……?
きっと、本当の答えのない問いなのでしょう。そして、本当の答えがないからこそ二人は真剣にぶつかり合うことができる。
本書は講談社タイガから出版されているとあり、ラノベ風の展開を見せますが本筋は本気の喧嘩です。読みやすさと熱さのバランスが絶妙で、青春の学園ものという一面を見せたり、ちょっとしたミステリ要素の一面を見せたりと、最後まで飽きを見せない重厚な一冊になっています。
キャラも魅力的で、冷静で的確なアドバイスをくれる一也の友人や、面白い小説を書きたいと浮足立つ後輩など、読めば読むほど惹かれてゆきます。
3、最後に
「小説の神様」という、小説界を震撼させたタイトルを持つ今作。
タイトルに顔負けしない熱量たっぷりの一冊となっていますので、本好きなら是非、一読くだされ。読み終えるとさらに本が好きになっています。
最後までお付き合いありがとうございました。
またお会いしましょう。
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