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【オススメ小説21】心の深淵をえぐる本物の小説『雪の鉄樹』遠田潤子

 贖罪とは何か?

 本当に誰かの人生を背負うとはどういうことなのか?

 こんにちは、名雪七湯です。21回目になる本紹介は、遠田潤子さんの代表作『雪の鉄樹』を取り挙げたいと思います。

1、本情報、作者情報、あらすじ

『雪の鉄樹』遠田潤子 光文社 2014

 重厚な知識深みのある設定が持ち味の遠田潤子さん。一冊読むと、連続テレビドラマを見終えたような満足感に浸り、また彼女の本に手を伸ばしてしまう中毒性。2009年に『月桃夜』第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『アンチェルの蝶』(2012)第15回大藪春彦賞候補となり、今回取り上げる、『雪の鉄樹』『おすすめ文庫王国2017』第1位に輝き注目を得る。2020年には『銀花の蔵』第163回直木三十五賞の候補作になるなど、著作多数、長く第一線で活躍する作家さん。

 以下、あらすじになります。

 三十二歳の庭師、雅雪は父と祖父が連夜、女を連れ込むたらしの家で育った。ある人を待ち続けて十三年、その日まであと五日。両親のいない少年、遼平を十三年間のあの日から育て続けて来た。遼平の祖母から酷い扱いを受けながらも、陰にあるのはある贖罪だった。様々な人の人生や思惑が絡み合いながら、ある人に会えるまでの五日間の激闘の時間を描く。

2、複雑に絡み合う人生

 作品は三十二歳の庭師、雅雪を中心にした三人称視点で進みます。

 登場人物は

 主人公、雅雪

 両親がおらず雅雪に十三年間育てられた少年、遼平

 お得意様の老人である施主、細木

 細木の孫で遼平の同級生である隼斗

 過去に焦点が当てられた時には雅雪の父、祖父……などなど、

 沢山の人間の人生過去考えが絡み合いながら今を生み出す、群像劇のような形式を取ります。葛藤衝突欲望などの心理描写が徹底的に描かれており、庭師としての知識にも富む重厚な一冊になります。

 450ページある大作であり、長編ながら読めば読むほどのめり込んでしまいます。遠田さんの作品は舞台設定人物設定が本気で編み込まれており、読み疲れる本物の小説と出会いたい方にオススメです。

 遼平の同級生である、隼斗は遼平に目を付けいじめを行います。隼斗は祖父である細木にも反抗し、遼平は遼平で雅雪に反抗問題行動を繰り返します。そして、雅雪自体もたらしと周囲から評された父や祖父に反抗し続けながら生き続けています。誰かが誰かを傷付け合う様子が上手に描写され、しかしそれは憂さ晴らしなどではなく、自分のを庇う本能だっりもします。誰かを傷付ける人は、誰かに傷付けられたことがある。鎖のように傷が繋がってしまう、人と人が絡み合った人生が物凄い筆力で描かれる。

 途中、読んでいる時のストレスも強いですが、辿り着くラストは綺麗な一作です。途中途中で胸がいっぱいいっぱいになるので、休憩を挟みながらも続きがどんどん気になる、正に本物の小説と言えます。

3、最後に

 重厚な小説は本当に人生が揺るがされる気がします。

 人によって小説に求めるものは違います。さくさく読めること。SFやファンタジーなどの世界観にのめり込むこと。などなど。そして、本気で人生を揺るがしたいということ。この小説ではそれが体験できます。

 最後までお付き合いありがとうございました。

 またお会いしましょう。


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