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【オススメ小説19】小説を書きたいあなたへ贈る『砂上』桜木紫乃

「小説を書きたいのなら、書けばいいんじゃないかと思うんですよね(P10)」

 こんにちは、名雪七湯です。19回目まで続いたオススメ小説紹介ですが、今回は桜木紫乃さんの著書『砂上』を扱いたいと思います。

1、本情報、作者情報、あらすじ

『砂上』桜木紫乃 角川書店 2017

 桜木紫乃さん。2007年に『氷平線』にてデビュー、『ホテルローヤル』(2013)が第149回直木賞を受賞し、2020年に波留さん主演で映画化金澤 伊代の名義でも活動しており、『家族じまい』など著書多数。

 詩の活動も行っているとあり、柔らな表現女性の心を的確に描く作風が特徴の彼女。「共感」できる小説を次々生み出す活発的な小説家。

 以下、あらすじになります。

 離婚した夫からの慰謝料と、結婚するつもりのない男の幼馴染のビストロで働く僅かな給料で生活する柊令央。文章を書く仕事をしたい夢を抱きつつもエッセイの賞に時々応募する程度の活動しかしない彼女。くよくよしていてわがままで。ある日、母娘エッセイで優秀賞を受賞した彼女の元に、編集者の小川乙三が訪れる。冷徹で気の強い彼女と小説を書くことになり…。

2、小説を書きたいあなたへ贈る、主体性

 今作は「劇中劇」の形式を取ります。

 簡単に言えば、主人公の柊令央が作中で書いている小説こそがこの『砂上』なのです。小説を書く小説では時折取られる形ですね。最近では、映画を撮る映画「カメラを止めるな」が有名になりました。アニメを作るアニメ(原作は漫画)である「映像研には手を出すな!」など、創作をする創作物は私のような創作クラスタにとっては意欲が駆り立てられます。

 話を戻すと、

 『砂上』では、うじうじしてけれどわがままで「書きたいな」とは思いつつも行動に移さないという、もどかしい創作者を描きます。

 それに対して激励するのが、冷たい女性編集者の小川乙三です。

 彼女は「頑張れ」「あなたならできる」などとは言いません。

「やりたいならさっさとやれば? なんでやらないの?」という突き放すような応援の仕方なのです。うじうじして周りを見る令央に対し

「主体性のなさって、文章に出ますよね」(P5)

 という火の玉ストレートの言い方をします。

 主体性。

 それがこの作品のキーワードです。男にも見放されお金にも見放された令央が小説にだけ向き合うということ。うじうじせずにそれを行動に移す「主体性」。自分がやりたいなら、やれば? ただそれだけ。

 小説を書いている人間ならば、心に痛いほど響く言葉に満ちており、「済みません、さっさと書きます」といつの間にか小川乙三に謝ってしまいます。小説を書かない人でも、自分のしたいことをする力強い行動力主体性をもって生きる、という姿勢を正すことができる一作だと考えます。

3、最後に

 私もこの作品がとても好きで創作に手が付かなくなると、この一冊を手に取り小川乙三の言葉に打たれにゆきます。小説だけでなくとも、創作をしている人にとっては痛くも有難い一作になってくれると思います。

 最後までお付き合いありがとうございました。

 またお会いしましょう。


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