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アツアツとろり セロリポタージュ

年末の足音が近づいてきた。寒風に首をすくめつつ、そこはかとない焦燥感と高揚感に浮き立つこの季節、とびきり美味しいセロリポタージュでホッと温もった話をしたい。

先日、料理上手にお呼ばれして泊りがけの忘年会に参加したときのこと。遠方の友人たちが手に手に名物や銘酒を持参した上、クリスマスの予行演習だと、なんとチキンの丸焼きを振る舞われ、赤ワイン片手にこころゆくまでカリカリの皮とジューシーな肉汁を堪能した。骨付きの肉はいいものだ。見た目に華やかだし豪勢だし、もちろん味もたいへん美味しい。

さて大いに食べて飲んだ翌日、今朝くらいは軽めで、と自戒を込めて胃をさすりつつ朝食の席につくと、湯気のたつスープ皿が供された。鼻をくすぐる美味しそうな香り、あたたかみのあるクリーム色はほんのりグリーンがかり、端にはかすかに金色の油が浮いている。ほうほう。どうやら昨晩のチキンがクリームシチューに変身したな、と名推理を披露すると、料理上手はにこっと笑って食べてみてよと促した。そのにこっ、は昨晩メインを尋ねた笑みに似ていて含みがあり、私は いささか 構えてスプーンをとった。本音を言えばクリームシチューは飲み会の翌朝には過ぎたご馳走だと思ったのだが、親愛なる小さなシェフはどんなサプライズを仕込んだのだろう。

いただきます。
スープは意外にもさらりとしていた。グリーンは完全なるペーストではなくかすかに繊維が残っている。なんだろう、ホウレンソウ?湯気の立つ白い湖面を揺らしてひとさじ、ふう、ふう、すっ。
流れ込んできたのは芳醇な肉のうまみ、やはりチキンベースのクリームスープだと頷きつつ飲み込んでからが驚きだった。

スッと鼻を抜けていく、この清涼な香りはなんだろう。

すすっ、すうっ。熱いスープを勇んで啜る。時折チキンのかけらとグリーンの繊維が舌に転がる、素朴でシンプルなポタージュ。生クリームではなくきっと牛乳の優しい甘み。とてもあっさりしていて、しかしとてもコク深くて塩気もきいて、飲みすぎた朝にはぴったりだ。
でもこのグリーンがわからない。飲み込んだ後の爽やかさ、ホウレンソウじゃない、ブロッコリーでもない、グリーンピースのような豆のクセもない。考え込むうちすっかり飲み干してしまい、お代わりとともに降参を告げた。

わからなかった?と意外そうに教えてくれた正体はなんとセロリ。
チキンの骨から圧力なべで出汁をとり、葉も茎も丸ごとのセロリや野菜類もコトコト煮込み、ハンドブレンダーでポタージュに仕立てたのだという。二日酔い気味でも爽やかでしょう、とたっぷりよそってくれたスープを改めて味わうと確かにセロリ。あぁセロリ。間違いない。

でも、そんな、セロリってもっと、鮮烈な香りと歯ごたえだと思っていた。生のセロリなんて自己主張が強すぎて、前菜以降も何を食べても鼻先に余韻が残っているくらいなのに。
すすっ、ごくり。くたくたになるまで柔らかくなったセロリはチキンと手に手を取り合って、チキンの脂の臭み消し、セロリの尖った香味を和らげて、補い合ってものすごく複雑で豊かな味へ昇華させている。

おいしい、と言葉を尽くして褒め称え、論より証拠と二杯目もするすると胃に収め、また食べたいと先んじて熱烈なラブコールを送っておいた。
コンソメキューブでもできる?うん、でもこのとろとろのゼラチン質は骨ごとチキンの恩恵だもの。
あぁ、美味しかった。 骨付きの肉は実にいいものだ。