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ぶつかって何かを実感したいんだ

クラッシュ(2005/アメリカ)
監督:ポール・ハギス 
出演:サンドラ・ブロック ドン・チードル マット・ディロン

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この作品の出現によって『クラッシュ』という全く同じタイトルの映画が、3本になってしまった。ちなみに他の2本とは、デヴィッド・クローネンバーグ監督のアブナイ映画『クラッシュ』と、奥山和由監督のドキュメンタリー映画『クラッシュ』だ。

しかし邦画はともかく、洋画の邦題で同じ『クラッシュ』が2本あっていいのか。こういう場合、後に公開された方に副題をつけたり英字にしたりして何か工夫するだろうに。日本でクローネンバーグの『クラッシュ』が無視されたみたいで、ちょっと遺憾である。

でも、それをまぎらわしいと思っている人はあまりいないかもしれない。だってもう『クラッシュ』といえば、今ではこっちだもん。『東京タワー』といえば岡田准一主演のやつではなく、リリー・フランキーの方を指すのと同じですね。

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さて、サンドラ・ブロックが惚れ込み、アカデミー脚本賞を受賞した作品ということしか知らずに見たせいか、全く先が読めず。なのでグイグイと引き込まれた。すんごいラストが待ち受けていそうな気がして途中で見るのをやめそうになったけど(つらいシーンが連続のため実際に席を立つ人が続出)、最後まで見てよかった~!ホントに!

複数のエピソードが絡み合い、次第に人間関係がつながっていくという『マグノリア』以来よく見られる手法だったので、最初は正直「またかこれか」と思ったものの、見ていくうちにそんなことが全然気にならなくなる。

「白人VS非白人」という単純な図式ではなく、信頼関係のない世界の恐ろしさ。空しさ。白人も非白人も、自分の身を守ることで精一杯なんだなあ。

しぶとく映画界に生き残っているマット・ディロンも、俳優としての底力を見せつけた。

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ここには悲劇があり、救いがある。その救いが、ふっと栓が抜けたような、肩の力を抜いたような、これまた絶妙な描き方でさすがだ。

人間に悪い人も良い人もいない。状況が人を悪にしたり善にしたりするだけなのだ。

性善説の映画?

脚本が素晴らしい!と思ったら、監督&脚本を担当したポール・ハギスは『ミリオンダラー・ベイビー』『父親たちの星条旗』の脚本を手がけた人だった。

心にずしりと響くけど重苦しくはなく、答えを出さず、この世界に悲観も楽観もしていない姿勢がいい。




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