妥協ではない。変化したのだ
2人のローマ教皇(2019/イギリス・アメリカ・イタリア)
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:アンソニー・ホプキンス ジョナサン・プライス
2012年にローマ教皇だったベネディクト16世と、その座を受け継ぐことになるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿の間で行われた対話を描いた作品。
実話に基づいてはいるが、2人が会ったのは2013年にベルゴリオ枢機卿が教皇になった後なので、これは想像による物語だということになるだろう。
こんなに長い時間、お年寄りの姿を見つめたことはない。そう思うくらい、とにかく主演2人の演技を堪能するための作品である。
顔に刻まれたシワ。背中を丸めてゆっくりと動くしぐさ。顔を近づけて交わされる含蓄のある言葉。それら1つ1つが心にじわじわと沁み通ってくる。
冒頭から目を見張ったのは新教皇の選出手続き「コンクラーヴェ」だが、カトリック教会が何世紀もかけて練り上げてきたこの伝統的システムを淡々と映し出しながら、アバの「ダンシング・クイーン」が流れるというポップなセンスにしびれる。
厳格で頑固そうな保守派ベネディクトと、庶民的で親しみやすい革新派ベルゴリオは、考え方は全く違うものの、カトリック教会の未来について意見を交わす。そして、対話を重ねながら理解を深めていくのだが、その過程で個人的な罪を告白するシーンがあって衝撃的。
アルゼンチンの暗黒時代についても語られ、これがただの交代劇裏話ではないことがわかる。
良心の呵責。告白。赦し。社会への批判をユーモアで包み込み、知性に裏打ちされた対話が心地よく、ほぼ会話劇という地味な話なのに退屈することがない。
だって2人はファンタを飲み、ピザを食べ、ピアノを弾いたりダンスを踊ったりもする。
孤独をチラリとのぞかせるアンソニー・ホプキンスのカリスマ性が、現教皇役にピッタリ。
一方、飾らない人柄の奥に闇を抱える枢機卿を演じたジョナサン・プライスも、地に足のついた軽やかさで、彼らも人間なのだと思わせる存在感が心に残る。いいものを見た。
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