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俺はここにいて、お前はそこにいる

王の男(2005/韓国)
監督:イ・ジュンイク 
出演:カム・ウソン イ・ジュンギ

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武田鉄矢が出ていた。見たらわかる。絶対に武田鉄矢。しかも結構おいしい役です。ま、どうでもいいことだけど、似すぎていてすごく気になったもので。

この映画の予告編を映画館で見た時、「これ見たいわ」「絶対に見るわ」と女子高校生のように色めき立っていたオバサマたちがいたが、これが美青年イ・ジュンギ見たさであることは火を見るよりも明らかだった。

女って、女性的な男性に弱いよね。男も女も中性的な方が、色気があるものね。そして、このロングヘアで色白で華奢で切れ目が美しいイ・ジュンギの横にいるのが、髪もじゃもじゃで色黒でワイルドな男である。

静と動。白と黒。清らかな役と汚れ役。

もう笑っちゃうくらいのベタな対称で、お互いがお互いを引き立てている構図だ。

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この芸人2人が、史上最悪の暴君といわれた王(やや柄本明似)の前で、王をおちょくった寸劇をするハメになる。王が笑わねば、首が飛ぶ。でも王はクスリとも笑わない。その仏頂面が「キレる直前!」みたいな狂気じみた表情なので、怖いのなんの。

そんなピリピリした緊張感の中で、ついに王が一人でバカ受けした。それは下ネタでした。下ネタは男にウケる。特に幼児性の強いタイプの男には。

それにしても、笑っても怖いなあ。この王は。トラウマまみれでどこか狂っているから、何を思ってそんなに笑っているのかわからん。

この王と芸人2人の三角関係を軸に物語は進んでいくのだが、この3人を個性的で存在感のある役者が演じていて、そこらへんの微妙なバランスがよい。

そうそう。三角関係にはバランスが必要よね。役者それぞれのオーラが別方向に放たれているお陰で、安定感がある。

特にこの作品が出世作になったイ・ジュンギは、演技がうまいというより、「キレイな男はそこにいるだけで間がもつ」って感じだけど、アクの強い他の2人にはさまっているお陰で、泥に咲く白いスイレンのよう。他の出演作では、ここまでの魅力は出せないと思う。

でもまあ要するに、わかりやすい映画である。キャラクターも話の展開も何もかも。で、そんなにはっきりくっきりわかりやすいのに、一体どんな映画だったのかと後で思い返してみると、これがまた散漫なイメージしか思い浮かばないんですわ。

3人3様のドラマを、丁寧に描きすぎているからじゃないか。欲張りすぎというやつ。

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それはそうと、王のあの愛妾はあれでOKなの?

人気の芸妓だったところを王に見初められ、しかし「王の男」の出現によって干されてしまい、彼に嫉妬して謀略をめぐらせるというありがちな悪女なのだが、この女のどこにそんな魅力が?

だって子どもじゃん。フツーの顔じゃん。頭悪そうじゃん。全然納得いかないよ。

もしかして、王の女の趣味の悪さをこれでアピールしてるのかもしれない。あまりに魅惑的な女性だと「王の男」がかすむから、この程度でいいのかもしれない。でも、もうちょっとどうにかしてほしいなあ。ふてくされた顔が、すんごく憎たらしいんですけど。

ところで、「王の男」というタイトルからムフフを想像し、ムフフと思いながらこれを見た人は、期待はずれだろう。

ムフフなシーン、ないない。

王と「王の男」は、夜な夜な人形劇や影絵をして遊んでいる。そこがこわくて哀しいのだ。身分の低い一介の芸人相手だからこそ、王は深い孤独を吐き出すことができる。それは女でもダメ。男でもダメ。女のようで女でないイ・ジュンギだったからこそ、その役目を果たせたのだと思う。

たぶん映画の終わり方からして、これは「あっぱれ芸人根性!」というのがテーマなんだろう。でもどっちかというと、この王の心の闇の方に感情移入してしまうので、王にまつわる話が強く印象に残ってしまう。

ほどほどにチョイ役でよかったかも。王は。

でもただの暴君だと、「王の男」の存在意義がないしなあ。うーん。ま、イ・ジュンギを見るだけでも儲けモンなので、それでよしとしよう(←結局あのオバサマたちと同じ)。

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