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限りある時間の中で生きること-あの日のトンボ

ナツです。「明日は必ずやって来ない」という価値観で57年間生きてきた私でも、さすがに急性リンパ性白血病という診断名は青天の霹靂でした。今日は、病気の宣告を受けたことで得た「限りある時間」についてお話ししたいと思います。

白血病の宣告は、もちろんつらい体験でした。しかし、その体験のおかげで、時間についての新たな理解を手に入れることができました。明日が必ずやってくるとは限らないということを身をもって経験し、今この瞬間がすべてであることを深く理解しました。

最初の入院は40日以上にも及びました。この無菌室から出られる日は本当に来るのだろうか?窓の外の空気を再び吸う日はあるのだろうか?人は五感を通して情報を処理すると言われますが、風や音、匂いがない生活が続くと、不安が時間とともに増していきました。
やがて、血液の数値が回復し始めた頃のことです。リハビリの先生(理学療法士)が、私をクリーンルームから出し、屋上に連れ出してくれました。生まれてから外の空気に触れない日があるなど、考えたこともなかった私にとって、それは本当に貴重な瞬間でした。季節は初夏から夏へと移り変わり、シロツメクサが風に揺れ、トンボが飛んでいる光景が目の前に広がっていました。

暦は8月になっていました。お盆が近づくと子供の頃、ご先祖様はトンボに乗って帰ってくると祖母に教わったことを思い出しました。もうそんな季節なのか?祖母はとうに亡くなってしまいましたが、遠く離れた故郷の母は、今日も祈っているのだろう。トンボを見て願っているのだろう。「神様、仏様、ご先祖様、ナツの病気が必ず良くなりますように」涙があふれて止まりませんでした。元気になろう、生きよう。そう思いました。


時間は有限であることを身をもって知りました「画像作成:Canva」

あの日のトンボは、故郷から海を越えて、長い長い距離を飛んできて私の眼の前にやって来たのかもしれません。「ナツ、来年の夏は、お墓参りに帰ってきなさい、みんなあなたを待っているよ」と。


あの日から1年。私は元気に過ごしています。造血幹細胞移植のおかげで、今は寛解状態です。月に2度の検診は欠かせませんが、それでも、退院してからは五感をフルに使って毎日を過ごしています。風のそよぎ、鳥のさえずり、花の香り、家族の声、そして美しい風景—これらの日々の小さな喜びを大切にしながら、毎日を生きています。

「Images created with Canva」


ナツ

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